小三治さんの貌のおもいで。    (味わうっつーには長すぎの件も含めて)

2021-08-07 22:26:31 | memo。

NHK「噺(はなし)家 柳家小三治 コロナと闘う」
 5月か6月、途中から録った録画を途中まで見て、チケットサイトで公演情報をチェックした。抽選だったから申し込んだんだ。当たらないと思っていると当たる。近づくに連れて感染症の状況は悪化するが、昨年と違って販売元に揺らぎはない。演者に、ない、のか。コロナ禍下、医療と付き合いながら地方を移動する。

 楽しみだった。
 昨夜、6日夕方に家人発熱。7日朝38℃、検査へ。とりあえず私自身ではない。どれだけの無症状陽性者が闊歩していることだろう。でも陽性の可能性の高さを自覚しながら多くの人と接触したくない。行きたくても入手できない人がたくさんいるのに無駄にしたくない。狭い中あちこち消毒して歩きながら、あーどーすべーと思うところへ、まち歩き型文人女子からご機嫌伺いのメールが。
本文も読まずに電話し、即決。はるばると当方の最寄り駅。手渡しし、立ち話で別れた。私より噺のわかる観客が行く。見逃しの惜しさよりとんとん拍子の爽快。



数えて驚く、そのほぼ40年前に、34歳の社長に彼女の住まいの近く、南池袋の緩い坂の途中だったような、ガラスの向こうに明るい緑がよく見える店に連れられて行った。ときどき来るのよと。
角度のあるカウンターに座り、小三治さんがたまに来るのバイクで、と社長が言って暫くすると、実にご本人が数メートルも離れていないカウンターの向こうの端に、慣れた様子で座る。社長は小三治さ~んと声を飛ばすが、小三治氏は「他人」に笑顔を返したりはしない(のだろう)。

落語、をほぼ知らない。ただ、社長の声でこちらに向けた顔は、あの熊本のうつくしい同期生の顔と同じように脳裏に張り付く静止写真だ。尖ったひと。




 大久保の理髪店、理容師である女性の風貌は実に私の母を思わせる。母よりややふくよかで、このかたにお似合いの赤いマニキュアを母がつけていたら驚天動地というものだが。貌が似ているというのは、なんというか、ふしぎなものだね。
 革ジャンのイメージのあった小三治氏の尖った貌をいま包むものは、この録画内で愛用を見せる、やわらかなシルクの風呂敷のような大きなストールに似ている、とかかもしれない意味ない。



(大久保の理髪店にて)

や、さっき鏡見てね、ああ老人だなあと思ったの。

老人だなと思ったってしょうがないよ老人なんだからな。
でもね、ちっとも老人なんて思ってねえよ。



ここでナレーションが入る。「十代目柳家小三治さん81歳」。この声で混乱する。これは昭和の映像か。
いや、私の知る昭和の小三治さんは年寄り顔ではない。映像はクリアだ。リモコンを掴みナレーターを知りたくて番組情報を見る。
宇田川清江さん。この声、現役。その響きを味わいながら、私は言葉をあそぼうとする。
自我のうちにそとに沿い逸れる人生とか時間とかをあの口元で、畏れ多いよと口には入れずに咀嚼するよなしないよな。そんなどんな姿、眺めるばかり。



開演前。
マネージャー : きょう80歳最後ですから高座上がるのね。
小三治氏 : 信じらんないねえ。
マネージャー : ねー、ほんとにねー。
小三治氏 : 自分が80歳なんて信じらんねえよ。
 だましてんだろお前。
マネージャー : え?
小三治氏 : だましてんじゃねえの?
マネージャー : いや、だませるものならだましたいですよね。でも80歳らしいんですよ。
小三治氏 : ぼう然とするねえ。うそだろって思っちゃう。
 もう寝るしかないね。(と、卓上の腕に伏す)
マネージャー : あのモニター見てもらうとわかるんですけども、きょうはソーシャルディスタンスで半分のお客さまを入れてやるんですって。
小三治氏 : 頑張って。
マネージャー : 頑張ります。師匠も頑張ってください。
小三治氏 : (返事のかわりに、目を閉じたまま眉を上げて舌打ちのように口を短く開閉し、小さく毛振りのようにかしらを回した)



こんなときにでもわざわざ出てこようってのはまた、何かしなくちゃいられない心に人々がなってるとも言えるねえ。
 小さい自分がどれだけのものを皆さんにお返しできるか 
     (拍手、着座、お辞儀と拍手)
 新しい年になりました。えー、なかなかどうして世間は、というより世界じゅうが騒がしいようですが、ま、これを災難と、思うしかないんですけど、考えてみるってえと、どうですかねえ、長い目で見て、こういう年は滅多にある年じゃありませんから、じっくりと味わって、お過ごしいただきたい。
 どうにも我慢ができなくなって (「粗忽長屋」へ)







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