協力している女性誌「グレース」(世界文化社)12月号に俳優の豊川悦司さんが、「やわらかい手」のコラムをお書きになっている。その文章は映画コラムというよりは、映画ポエムに近い。既存の映画評論家や映画ライターが書く文章とは一線を画している。作品の感想を正直なお気持ちで綴り、実に新鮮で爽やかで、心の底から暖かい気分にさせてくれる。
私もマリアンヌ・フェイスフル主演のこの「やわらかい手」にはいたく感動した。ここで、マリアンヌ・フェイスフルと言っても、往年の映画ファンなら誰でも知っているだろうが、今の若い人たちには馴染みのない名前なので、ちょっと彼女の説明をしたい。
マリアンヌ・フェイスフルは今から40年前には、女性シンガーだった。マリアンヌの名前を世界に知らしめたのが、ローリング・ストーンズのミック・ジャガー、キース・リチャーズが作詞、作曲した名曲「アズ・ティアーズ・ゴーバイ」。この曲で彼女は大ブレイクした。その後は、ミック・ジャガーの恋人として君臨し、実生活ではドラッグに溺れ、時代の先端を行くカッコいい女、ハチャメチャな女だった。
私とマリアンヌ・フェイスフルの出会いも今から約40年前だった。それは中学生の時の中間試験の最終日のことだった。一夜漬けの勉強でも、試験が終わったとなると、解放感に浸り、それはウキウキと楽しい気分になってくるのはどの生徒も同じだと思う。
10代の頃からシネマディクトの私は、試験が終わった日には即行、映画館に飛び込むのが常だった。当時は、アメリカンニューシネマも全盛であったが、フランス映画もそれに負けないくらい台頭していた。アラン・ドロン、 リノ・バンチェラ、ジャン・ポール・ベルモンドなどなどの俳優陣。
その中でも世界一美男子のアラン・ドロンの人気は、現在のブラッド・ピッド、ジュード・ロウ、ヒュー・ジャックマンなど問題にならないくらいの大人気だった。彼の主演する映画は、全て大ヒットした。私の好きな作品は「太陽がいっぱい」「地下室のメロディ」「冒険者たち」「さらば友よ」。名作ばかりであげたらキリがない。
いつも共演する女優とスキャンダルを起こすのも世界一のプレイボーイ、アラン・ドロンの真骨頂で、共演したナタリー・ドロンは奥様になり、あのファニーフェイスのミレーユ・ダルクとの愛人関係はあまりにも有名な話だ。おまけにミレーユ・ダルクとは「愛人関係」という作品で共演しているから、そのスケールの大きさからも、本当の意味での映画全盛の「銀幕の大スター」だったのである。
そんなアラン・ドロンの新作が来ると聞いて、私は放課後、千葉の某映画館に転がるように飛び込んだ。その映画の題名が「あの胸にもういちど」だった。アラン・ドロンと共演する今度のマドンナが、マリアンヌ・フェイスフルだと分かった時、私はびっくりした。なんとミック・ジャガー様の恋人だったからだ。ミックがこれを知ったら、どんなに逆上するのかと、子供ながらに心配した。
スクリーンの中のマリアンヌ・フェイスフルは、均整の取れたシンメトリーな豊な胸、なだらかな曲線を描くウエストのくびれ、カモシカのように細い足の全裸を堂々とさらけ出していた。ブロンズ像のような美しいその全裸の上に、きっちりと体の線を映し出すタイトな皮のジャンプスーツを着込み、颯爽とバイクに跨っているではないか!愛人のアラン・ドロンに会いに行くためのコスチュームなのである。
なんてカッコいいんだろう!溜め息が出ていた。このシーンだけで、私は完全にマリアンヌ・フェイスフルにイカれてしまった。女が惚れる女。それが、伝説の女神、マリアンヌ・フェイスフルなのだ。
それから、40年の歳月が流れた。あのマリアンヌ・フェイスフルも今では61歳。そのマリアンヌが40年ぶりに主演する映画「やわらかい手」がやって来ると、宣伝部の方から試写のご案内を頂いた時、実は最初、見るのをためらった。女にとって40年の年月の残酷さは重い。あの私のミューズ、マリアンヌをどのように変えてしまっているかが心配でたまらなかった。もちろん、私だってマリアンヌと同じように年を取っている。
その再会が恐かったが、青春時代の女神が40年ぶりに主役をやるのだから、なんとしても見るしかないと決心して、完成披露試写会場に行った。
マリアンヌが画面に現れた。中年太りした姿に、スティーブン・キング原作のホラー映画「ミザリー」で主役した性格女優、キャシー・ベイツとダブった。
がっかりした。夢が壊れた。これが、マリアンヌと再会した私の最初の感想だった。しかし、しかし、しかしである。マリアンヌが演じるマギーという初老の女性の生き様が画面を走り始めた瞬間、もうマリアンヌの老いた姿へのこだわりなどすっかりと消えていた。
マギーの最愛の孫が、不治の病を患っている。オーストラリアで手術すれば、生存の可能性が出てくる。しかし、息子夫婦も祖母のマギーも莫大な金のかかる手術の費用などあるわけがない。
そこで、マギーは孫の命を救うために、ロンドンのソーホーの風俗店で働くのである。初老の女では体は売れない。しかし、マギーには天賦の才があった。それは、彼女の「やわらかい手」なのである。マギーは男を手でイカす最高のゴッドハンドの持ち主だったのだ。たちまち売れっ子になり、彼女はあっという間に孫の手術の費用を稼ぎ出してしまう。
ややもすると、エログロになりそうな話だが、孫の命を助けるために、連日のように風俗店に出勤するマギーの歩く姿を見ているうちに、無償の愛情の素晴らしさに誰も胸が打たれるのである。
マギーを嫌っていた息子の嫁も、その風俗店の店主も、その健気で異色な「無償の愛」の姿に胸を打たれ、いつしかマギーを見つめる彼らの表情が、いぶし銀からプラチナの輝きに変わる瞬間の演出も見事だった。風俗店の店主・ニキとの間に芽生えるマギーの恋愛感情も素晴らしかった。
「あの胸にもういちど」の伝説のマリアンヌ・フェイスフルだって、年を取る。当たり前だ。しかし、年をとっても、カッコいい女は永遠にカッコいいのだ。老いても風俗店で働け、ナンバーワンになれるマギー(マリアンヌ)がそれを証明してくれたのである。
「やわらかい手」公式サイト http://www.irina-palm.jp/
監督:サム・ガルバルスキ
出演:マリアンヌ・フェイスフル/ミキ・マノイロヴィッチ/ケヴィン・ビショップ
12月8日公開
やはり。
全裸の上に皮のジャンプスーツ。アラン・ドロンとの過激なセックスシーン。二人の合体を遮る、花瓶の演出。よかねー。思春期の時だから、興奮したよね。
でも、60歳超えても、マリアンヌはカッコいいよ。カッコ良さって、年じゃないよ。
絶対に「やわらかい手」は見たほうがいいよ。強くお薦めしますです。
でも、Yukkoちゃんが言うように、無償の愛を貫くマリアンヌは神々しいほど美しい。
イタリアのミラノのネイティブはこの映画どう思っているんだろうか?
見たいるイタ人がいたら、感想が聞きたいのでよろしくね!
やっぱ、ヨーロッパ大陸は様々な国の集まった大陸。イタリア人の方が、この作品を評価すると思ったが。
スーパーで9ユーロの安売りパックとは。情けなや。
でも、調べてくれてありがとう。グラッチェ!