3D映画が苦手なのである。
ド近眼のところに加齢により老眼が加わった私は常時メガネをつけていないと日常生活ができない。
だから、メガネの上にメガネをかけなくては見れない3D作品の試写はなるべく避けていた。
しかし、日本の時代劇を3Dで作った『一命』の作品情報が届いた時は、ちょっと驚いた。なんせ、3Dはハリウッドの十八番だとばかり思っていたので。
さらにそれが、あの仲代達也主演の『切腹』(62年)のリメイクだと聞いた時には、自分のメガネの上に3Dのメガネをつけても絶対にこの作品は見たい!そう思って、雷雨の日、アキバシアターの試写室に行った。
江戸時代の初め、大名のお家取りつぶしのために、巷には職を失った浪人たちが溢れていた。そんな浪人たちのサバイバル術が「狂言切腹」。お金持ちの大名屋敷に押しかけては切腹を申し出る。自分の家の前でハラキリされたら困るので、お大名様はその浪人にいくばくかのお金を渡して、ていよく追い出す。これが「狂言切腹」なのである。
知らなかった…。だから映画は知的財産になってくれるのだ。
オープニングで狂言切腹を企てる侍を瑛太。この瑛太の狂言切腹が失敗に終わったところから、この作品に得たいの知れないミステリアスな雰囲気が流れ始める。
芥川龍之介の「藪の中」を読んでいるみたいな吸引力をもって、見る側をスクリーンの中にぐいぐいと引っ張りこんでいくのだ。
主役を演じる市川海老蔵は、あのボコボコ事件で人生に汚点を残したが、今回の海老蔵は有り余るエネルギーで熱演し、あの事件の雪辱を果たしたと言ってもいいでしょう。
いや、もしかしたら歌舞伎役者兼実力派映画俳優として、新生・海老蔵の誕生かもしれない。
瑛太の妻役の満島ひかりは、個性がありそうでないことが個性の女優だと思うので、今回は適役だったような気がする。
10月15日から公開
【監督】三池崇史
【出演】市川海老蔵 瑛太 満島ひかり 役所広司