東日本震災後、競馬を見ても映画を見ても、なんとなく面白くなくなっていた。3月11日以後、なんだか人生観が変わってしまい、今まで楽しかったものが無味乾燥に思えてきたりした。これは私だけでなく、周囲にいる友人や家族が声を揃えて言っている。
少なくとも日本人の半分があの巨大な揺れを経験し、あの天地をひっくり返すような巨大地震が起こった時、「もしかしたら自分は死んでしまうのかもしれない」という恐怖を味わってしまったからだろう。
あの日以来、死生観が心を支配しているのだろう。地震や津波の被害だけでなく、未だに収束しない福島原発事故も大きな原因になっていることは確かである。せめても、原発事故が完全終息したとなれば、人々の心に残った不安やしこりは少しだけ緩和されるに決まっている。だからこそ、一時も早く、原発の収束を願うばかりだ。
で、そんな暗い心を抱えた中で、オープニングからラストまで、「わー!何この映画、めちゃくちゃ面白いじゃん!」と、大声を出して叫びたくなった作品が『アリス・クリードの失踪』である。
登場人物は3人。大金持ちの一人娘を誘拐し、身代金を奪う誘拐犯の二人と、たったこれだけの登場人物なのに、シナリオ抜群、演出抜群、ラストのオチも茶番でなくキチッと決めてくれ、まさにパーフェクト中のパーフェクトな作品に仕上がっていた。
この作品で、震災前の映画への自分の向き合い方が戻ってきた。
高揚する気持ちが戻ってきた。
やっぱ、映画って素晴らしい!!!
6月11にから公開
【監督】J・ブレイクソン
【出演】ジェマ・アータートン エディ・マーサン マーティン・コムストン