11月公開予定の作品なので、ちょっと早いかなと思ったけれど、舞台が尼崎の園田競馬場ということもあって、競馬ライターとしての視点から、どうしても感想を書きたくなった。
昭和の文豪・織田作之助の短編、「秋深き」と「競馬」が原作の浪花の夫婦の純愛を描いた心温まる作品だ。
主役の教師の夫役が八嶋智人、病気を患う妻役がサトエリちゃんこと、佐藤江梨子。ストーリーは男女が出会い、結婚するまでが、優しく穏やかに流れる。
33歳で夭折した作家、オダサクの原点「夫婦善哉」が甦る。そこに今では、衰退しつつある地方競馬・園田競馬場が絶妙に絡んでくる。
私は園田競馬場に行ったことがないが、浪花の夫婦の純愛と園田競馬場がこんなにピッタリと合っていることに、唸っていた。
病気の妻の名前は一代(かずよ)。夫は妻の病気を治すためにお金が必要だ。そこで、園田競馬場の馬券売り場で、一代だから「1-4」の馬単馬券だけを毎レース買い続ける。競馬好きなら、この気持ちが手に取るようにわかるだろう。
プレスによると、園田競馬場が積極的に撮影に協力してくれたとあったので、これも競馬ライターの私にはうれしかった。
この映画の重要なシーンは全て園田競馬場に終結するからだ。
同じくプレスにプロデューサーの寺田環さんの興味深いコメントが載っている。撮影で一番苦労した点はという質問に、
「ストーリーの大事な要素の1つとなっていたのが、競馬場で「1-4」の馬がくることでした。ただ、園田競馬場はそもそも馬場のつくりで1が来る確率が低いという統計があり、撮影中に1-4の馬が勝利することは全く期待できないことだったので、低予算ながらもCG処理を行う覚悟でした。撮影中は、スタッフのみならず、八嶋さん、佐藤浩市さんまでが1ー4の馬券を毎回自腹で買い、祈りを込め、毎レースを見守る様子が見られました。そして、撮休の日もレースの撮影をするためにだけ競馬場に何度も足を運んだスタッフの苦労の甲斐があり、なんと1-4の馬の勝利をリアルに捉えることに成功。苦労した池田組が一致団結する大きなきっかけになりました」
監督が、俳優陣が、スタッフが、一丸になって本物の嘘偽りないレースの1-4の馬券を買い続けていたことに、私は涙腺がゆるんでいた。1-4が来なければ、このシーンはつまらないCGで処理されていたからだ。
「競馬はCG処理じゃ、迫力ないよ。本物のレースをそのまま撮ってくれないと、競馬じゃないよ」
そんな気持ちで1番4番の馬が走ってくれたようで、なおさら感無量になってしまった。
公開は11月予定。「秋深き」に感動したたくさんの映画ファンが「1-4」の馬単馬券を買いに園田競馬に訪れてくれたら、それもまた素晴らしいことである。
秋深き公式サイト
11月シネマスクエアーにて公開
主演:八嶋智人 佐藤江梨子
赤井英和 渋谷天外 山田スミ子 佐藤浩市 他
監督:池田敏春
原作:織田作之助