「なみだは人間が作るいちばん小さな海です」
詩人、歌人の寺山修司の名言である。
韓国映画『ハーモニー 心をつなぐ歌』を見た後、この言葉が心に浮かんだ。
舞台は韓国の女子刑務所。収監者たちは、夫のDVや義理の父からの性的暴行を受け、自分の身を守るために殺人を犯してしまった。
殺人犯であるのだが、女性としてその動機が痛ましく悲しくさえ思える。
世代もバラバラな収監者たちが、刑務所の所長を説得して、合唱団を結成する。刑務所で子供を産んだ主人公のジョンへが発案者。彼女は18ヶ月間だけ子供と暮らすことが許されている。その後は我が子を里子に出すしかない。ジョンへは子供との別離の前に、その絶望の日が来るまでを歌を唄うことで気を紛らし、母親としての最後の誇りを保とうとする。
収監者たちの孤独感や絶望感が、コーラスを通して、徐々に緩和され、彼女たちは社会復帰の夢、更正の道を求め、生きる希望を持ち始めるのだ。
ここまで話すと、刑務所内の暗い話のように見えるのだが、塀の中の人間関係を実にコミカルに描いている点にも注目したい。ある種のコメディ仕立てになっている点も微笑ましいし気を楽にさせてくれる。
そして、ラストは...。
韓国で300万人の観衆を号泣させたという実績を持つ作品。おっしゃる通り、東映の試写室にいる誰もが嗚咽を重ね、私の右隣にいた若い女性は涙をこらえ切れずに大声を上げて泣きじゃくる。左隣にいた年配の男性はハンカチで目頭を押させては「ひっく、ひっく」と子供のように泣きじゃくっていた。
試写室にいる誰もが確かに泣いている。
そう確信した時、私も遠慮なく大声を出して泣かせていただいた。
涙が体中の毒素を全てを追い出し、浄化し、泣いた後のこの爽快感は何なんだろう?
まるで、「心のデドックス」みたいな作品だった。
「なみだは人間が作るいちばん小さな海」であるが、その小さな海に私は溺れそうになったくらいだ。
泣くことによって、体も心も綺麗にしてくれた近代まれに見る感動作だった。
【監督】カン・テギュ
【出演】キム・ユンジン ナ・ムニ カン・イェウォン
2011年1月22日よりシネスイッチ銀座、新宿バルト9ほか