マリリンの映画日記

エッセイスト瀧澤陽子の映画ブログです!新作映画からオールドムービーまで幅広く綴っております。

『戦火の馬』

2012年02月28日 | 映画

 

 

競馬エッセイストでもある私。馬に関する映画の情報が来ると、真っ先に見たくなる。

馬が登場するだけで、馬バカの私は、その作品がいまいちくだらないと思っても、弁慶の泣き所、何でも絶賛する性癖がある。

映画ライターとしてはいささか不公平な判断をしかねないが、「お馬が好きなんですぅ!、だからしょうがないでんですぅ!」と、笑ってごまかしている。

「戦火の馬」は、競走馬でなく、軍馬の物語である。戦争に巻き込まれていく、1頭の馬・ジョーイの波乱万丈の人生をスティーブン・スピルバーグが微細にかつ壮大に描いている。

まず、軍馬に注目したスピルバーグ監督に拍手喝采。この作品は馬版「プライベートライアン」であり「シンドラーのリスト」なのだ。つまり、根底には反戦思想と平和への願いが込められている。

私は、「初の反戦馬映画」というジャンルを勝手に作っていた。

スクリーンの中で、軍馬ジョーイは暴走する。逃げる途中で有刺鉄線に絡まるジョーイの悲しさと悔しさ。戦争を起こしている人間たちに激怒の侮蔑の目を向けながら、彼は爆走する。まるでジョーイは人間たちに戦争の愚かさを教えようとしているかのように。

昨日、アカデミー賞が発表された。「戦火の馬」は作品賞にノミニーされたが、取れなかった。10年ほど前、競馬傑作映画「シービスケット」の劇場パンフにコラムを書いた。この時、ビスケット君も作品賞のノミネートされたが、無冠の帝王になってしまった。

馬は駆けるのが仕事。しかし、アカデミー賞の賞レースには負けてしまうのは、ちょっと皮肉といえば皮肉な話かも知れない。

しかし、元々アカデミー賞受賞作品も当たり外れのあるお祭りごとの結果。ノミネート作品の中に珠玉の一編もあるのも確かな事実なんですよね。

 

3月2日から公開

【監督】スティーブン・スピルバーグ

【出演】ジェレミー・アーヴァイン   エミリー・ワトソン


『ポエトリー アグネスの詩』

2012年02月10日 | 映画

 

 

韓国のお母さんが主人公の作品が大好きだ。その中でも、数年前に見た『母なる証明』のインパクトったらなかった。

韓国映画は、母親を描かせたら、多分、世界一なんじゃないかなって思っている。

『ポエトリー アグネスの詩』の主人公は、釜山で働く娘のために、その息子、つまり孫を預かり育てる初老のオバーサンである。だから、この作品は母親ではなく、祖母を描いているが、祖母と母親というのは、名前が変わるだけで、原点では同じなのではないかと思う。

このオバーサンの仕事はホームヘルパー。ある日、物忘れが酷いことから医師から初期の認知症を宣告される。

平穏無事に平和に生きてきたオバーサンに、この日を境に軒並みにアクシデントが押し寄せる。学校の友達の自殺に関与した孫への不信感と、孫を守る深い愛情が出たり入ったり。

どんどんと状況はオバーサンを孤独にしていく。

たった一つ、このオバーサンを救ってくれるたのが詩を書くことであった。

これだけの淡々とした物語なのだが、全身全霊を込めて、詩作に耽るこのオバーサンの姿を見ているうちに、なぜか泣けてくる。

試写を見て数ヶ月たった今でも、あのオバーサンの一つ一つの表情やしぐさが、心に焼きついて離れないのはなぜだろう?

 2月11日から公開

【監督】イ・チャンドン

【出演】ユン・ジョンヒ  キム・ヒラ  パク・ジョンシン

 

 

 

 

 


柴又帝釈天と寅さん記念館

2012年02月05日 | 映画

3月に開催する「昭和の銀幕を語るパート2」の講演会の資料作成のために、柴又帝釈天まで行ってきた。

昭和の映画を語る上で、私は山田洋次監督のフーテンの寅さんこと「男はつらいよ」シリーズは絶対に外すことのできない作品だと思ったからだ。

柴又を訪れてからもう15年の歳月がたっていた。さくらが旅に出る寅さんを見送る柴又駅のホームもあんまり変わっていなかった。

新発見と言えば、駅前に寅さんのモニュメントがあったこと。たくさんの寅さんファンたちは、このモニュメントの側にたち、写真を撮っていた。

寅さんファンといえば、年配者を思い浮かべるが、若いカップルの寅さんファンがたくさんいてくれて、私はうれしかった。

そうだ!昭和と言えば、寅さんなんだ!と、実感した。どんなに観念的な優れた芸術作品を作っても、日本人にはやっぱり寅さんなんだ!

山田監督は今、小津安二郎監督の傑作「東京物語」のリメイクとなる「東京家族」を取り始めている。去年、クランクインするはずが、東日本大震災のため、大きなリスクを抱えながら、クランクインを一年延ばしたそうだ。山田監督にとって東日本大震災は避けて通ることのない大きなショックであり痛手であったからだろう。

庶民に笑いと希望を与えた48作の寅さんシリーズを成し遂げた山田監督。「東京家族」のクランクアップが楽しみでならない。

帝釈天をお参りし、その側にある「寅さん記念館」まで足を伸ばしてみた。入場料500円という安さなのに、入館した途端、フーテンの寅さんの世界に巻き込まれていく。寅さんの生い立ち、おいちゃんとタコ社長と寅さんがよく喧嘩した、あの暖かい居間も再現されていて、私はマドンナ・リリーさん(浅丘ルリ子)になったつもりで、居間の脇にちょっこり座っていた。

「ねー、寅さん、あんたってさ、死んでも、こんなに皆に愛されているだよ!寅さん、あんたはやっぱ、一番私の恋しい人だからさ」と、私は勝手にリリーのセリフを作っていた。