マリリンの映画日記

エッセイスト瀧澤陽子の映画ブログです!新作映画からオールドムービーまで幅広く綴っております。

『アルバート氏の人生』

2012年12月14日 | 映画

 

『彼女を見ればわかること』『美しい人』『パッセンジャーズ』と、ロドリゴ・ガルシア監督に惚れ込んでいる。。

男でありながら、なんで、こんなに女の深い心理がわかるのかと、本当に驚嘆してしまうのだ。

多分、世界中のどの監督にも表現することのできない、天才的な女性心理分析家と言っても過言でない。

ついに、ガルシア監督の最新作がやってきた。

『アルバート氏の人生』である。

19世紀のアイルランドを襲った飢饉と疫病。貧しさのどん底の中で、男としてしか生きる術のなかったアルバート氏を、ガルシア監督ファミリーのグレン・グローズが切なく演じている。

ここで興味深いことを発見したのだ。

極貧の社会の下で女が生きる延びるには、「春」を売ることが手っ取り早い。しかし、このアイルランドの大飢饉は、売春という稼業が成り立たないほど貧窮しているという発見なのだ。

女を買いたくても、男に買うお金がなければ、売春は成り立たない。

では、どうするか?女を売れないのなら、男として生きるだけなのだ。この二択が尋常でない当時のアイルランドの現実だったのかもしれない。

体力と知力という最大の武器を使って、アルバート氏はホテルのボーイとして働く。女とバレたら首になってしまうから、極力隠し通す。

いつしか、アルバート氏は自らを女であったことすら葬り去るように、無我夢中で働く。

小金を貯めて、やっと、貧しさから抜け出ようとする希望が持てた瞬間までも。

これは、女の自立の物語である。

世界中で生きる女の数だけ、その自立方法は千差万別である。

しかし、である。アルバート氏の自立ほどかくも悲しいものはない。

物語の中で、一瞬だけ、アルバート氏が同じような生き方をしてきた女友達とドレスを着て、海辺を歩くシーンがある。

女を取り戻した一瞬の、このぎこちない女たちのシーンに、女性であるならば、誰もが涙を流すに違いない。

 

2013年1月18日公開

【監督】ロドリゴ・ガルシア

【出演】グレン・グローズ  ジャネット・マクティア アーロン・ジョンソン