アカデミー賞には懐疑的な私であるが、それでも世界最高峰の映画の祭典であることには間違いがないので、ノミニーされた作品はなるべく見るようにしている。
『それでも夜は明ける』の試写を見た時、私は絶対にこの作品がアカデミー作品賞を取ると思った。奴隷問題、差別問題という社会的なエッセンスが込められていて、スティーブ・マックイーン監督(あの大スターと同じ名前なのでびっくり)が自らがブラックパーソンであったからだ。
対抗となる「ネブラスカ」「ゼロ・グラビティ」「ダラスバイヤーズクラブ」よりもはるかに社会性があり、映画のクオリティそのものも実に優れていた。そして、この作品は、黒人初の監督の作品賞ということで、アカデミーに新鮮でリベラルな空気を吹き込んでいた。
やや、不満を言えば、『それでも夜は明ける』という邦題である。原題の『12yeras A slave 』のままの方が、この作品の真意を表していたような気がした。
3月7日から公開
もう一作が『ブルー・ジャスミン』である。ウディ・アレン監督の最新作で、主演はケイト・ブランシェット。ケイトはアカデミー主演女優賞にノミニーされていた。
で、またも私の予想は見事に的中した。ケイトはこの作品で絶対に主演賞を取ると思った。ノミニーされた他の女優の面々とは大幅に一線を画し、ものすごい迫力の演技で、その強烈な余韻を今でも残している。
裕福なセレブ生活を送っていたケイトことジャスミンは、ある日突然、夫も全財産も失い、文無しで、ド平民の妹の家に転がりこむのだ。
華やかな生活から一気にドブネズミのような生活環境を強いられるジャスミンは、どんどんと精神を病んでいく。こういった物語は多分誰もが好きなはずだ。人は人の不幸が大好きであるという、私の歪んだ見解に賛同してくれる人ならば。
ケイトは「大金持ちの見栄っ張りの女なら。落ちぶれた時には誰もがこうなるであろう」という変化を、視聴者の思い通りに演じていくのだ。
ぼそぼそと独り言で過去の栄光を語る哀れなケイトの姿に、人は何を思うか?
憐憫の情?
いい気味だわ?
落ちぶれた女って醜い?
でも、ここまで来るとかわいそうじゃない?
見た後に、こんな感想が飛び交うであろう。ただし、これは女性に限ってである。
ウディ・アレン監督の近年の作品では、私は最高傑作の一本だとも思った。
とにかくケイト・ブランシェットの演技を見ないと損をするはずである。
5月10日から公開