マリリンの映画日記

エッセイスト瀧澤陽子の映画ブログです!新作映画からオールドムービーまで幅広く綴っております。

『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』

2013年10月25日 | 映画

一番最初に見た吸血鬼の映画はイギリスハマーフィルムの「吸血鬼ドラキュラ」だった。なんと、今から50年以上も前の5歳のころ、地元の名画館で見た。

5歳の女の子にとって、クリストファー・リー演じるドラキュラは刺激が強すぎた。子供は怖いことは大嫌いなのだが、怖いもの見たさという強い好奇心もある。スクリーンの中で、ドラキュラが美女の首筋からドクドクと血を吸うシーンでは、怖くておしっこを漏らしていた。

それから、たくさんの吸血鬼の映画を見た。ハマーフィルムの怪奇映画が私をホラー好きの女の子に変えてしまったのだろうか。

特に印象に残る作品を思い出している。

『処女の生血』(1974)は面白かった。ポール・モリセイ監督で吸血鬼役が個性的なウド・キア。おかしかったのは、この吸血鬼は処女の女の子の血でしか生きられないというところだ。しかし、この時代の女の子はみんな男を知っていて、処女が少なくて困ったという点である。女の貞操観念の価値が時代とともに薄れていることを、吸血鬼が嘆いているというのも、実にコミカルで面白かった。

この『処女の生血』 と、どこか同じ香りを放つのがジム・ジャームッシュ監督の最新作『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』である。

舞台が、荒廃した車の町デトロイトであるのも興味深い。今や、アメリカのデトロイトは崩壊し、住む人が少なくなった荒廃した町である。アメリカの自動車産業の中心で栄えたあのデトロイトの凋落ぶりにスポットを当てたジャームッシュ監督の発想に脱帽した。

そして、そこに住むのが吸血鬼のカップルというのも、ありそうな話である。荒廃した町の風景をジャームッシュ監督は抒情的に映し出している。

『処女の生血』では、処女の純粋な血が無くなっている点に焦点を置いたが、今回の『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』で、ジャンクフードで体を汚染された人間の血は、コレステロールや脂質に溢れ、吸血鬼たちにはまずくて飲めなくなってしまったというところが面白い。 

寂れたデトロイトの町を、汚染されていない健康な人間の血を求めて徘徊する吸血鬼カップルを見ていると、哀れにさえなってくる。

この作品が、ある種の文明批判だと、じんわりとわかってくるのである。

吸血鬼さえ、まずくて吸えなくなってしまった現代人の血。

困ったものである。

12月公開

【監督】ジム・ジャームッシュ

【出演】トム・ヒドルストン   ティルダ・スウィントン  ミア・ワシコウスカ