マリリンの映画日記

エッセイスト瀧澤陽子の映画ブログです!新作映画からオールドムービーまで幅広く綴っております。

『戦場でワルツを』

2009年08月15日 | 映画
 今日8月15日は終戦記念日。忘れてはならない日である。

太平洋戦争で犠牲になった人々に心から哀悼の意を捧げる。

 広島、長崎の原爆投下、東京、神戸大空襲と、幾多の罪もない人々が家族や友を失い、その体を爆弾で焼かれ溶かされ、一瞬のうちに命を失った。

 今ある日本の平和は、この戦争で犠牲になった人々がいたからこそである。

 昨晩、テレビで『火垂るの墓』を放映していた。もちろん、このVHSは持っていて、私の子供たちがまだ小さい頃に、我が家では8月15日になると、『火垂るの墓』を見るのが恒例になっていた。すでに30回は見ているだろう。

 監督・脚本は高畑勲氏。以前、高畑さんにお会いした時、

「『火垂るの墓』は永久に語り継がれていくべき戦争の犠牲者の物語であり、アニメーションというスタイルが、よりリアルに戦争の悲惨さを表現していて、私はこの作品を超える反戦作品はないのではないかと思います」と、言った。

 高畑さんは

「僕だけの力でなく、スタッフ皆さんの努力で出来上がった作品ですよ」
と、優しい笑顔で謙虚にお答えになってくれたのが印象的だった。

 戦争孤児の兄・清太と幼い妹の節子。二人ぼっちで飢えをしのぎ、戦火を生き抜く姿は、戦争そのものよりも悲惨であった。もしかしたら、これが本当の人間の戦争の姿なのかもしれない。

 節子のあどけなさと可愛さに胸が打たれ、涙が溢れて溢れて、嗚咽が止まらない。節子の姿を思い出すたびに涙が滲んでしまう。私は息子と娘を持っているのでなお更なのかもしれない。自分の子供がもし戦争孤児になったら、こんな風になってしまうのかと、未知への恐怖さえ抱くのである。

 戦争をテーマにしたアニメーションでは、『火垂るの墓』は日本映画史上に残る大傑作だと信じている。

 そして、今年の秋、イスラエルからも戦争の傷跡をテーマにしたアニメーションが到着する。

 『戦場でワルツを』である。

 今年、イスラエル軍はパレスチナ自治区ガザ地区を攻撃し、かなりの犠牲者を出した。『戦場でワルツを』は遡ること27年前。レバノンで起こったパレスチナ難民大虐殺に従軍したイスラエルの兵士、アリ・フォルマンの自伝的なノンフィクションである。

 大量虐殺したトラウマから未だに復活できないアリ・フォルマンが戦争の矛盾と残虐さに真っ向から向き合い、自らが監督となり作った作品でもある。

 アニメーションという独特なカメラアングルで語られるからこそ、戦争の証言者の表情は、生身の人間よりも独創性を持って生々しく、深層心理が解明され、戦争の愚かさが抉り出される。

 イスラエル側から、こういった戦争反省が出てきたことも、実に画期的で清々しい。

 『火垂るの墓』と『戦場でワルツを』。アニメーションだからこそ描ける戦争の真実だ。


監督アリ・フォルマン
キャスト・声の出演 アリ・フォルマン

2009年10月、シネスイッチ銀座にて公開


『ナイアガラ』~⑦映画解説作品

2009年08月01日 | 映画
            


              ④『山の音』

 監督・成瀬巳喜男 。原作・川端康成。主演は山村総、上原謙、原節子の日本のオールドムービーだ。鎌倉を舞台にそこに住む家族の物語であり、高度成長に向かう日本を背景にした、のどかでまったりしたホームドラマであった。

             ⑤『9時から5時まで』
 
 1980年度の製作のアメリカ映画。監督はコリン・ヒギンズで、主演のウーマンリブの旗手・ジェーン・フォンダ。この作品はリアルタイムで見ている。当時はかなり面白く見たのだが、30年もたってから再度見たら、あまりにも稚拙な作りに驚いていた。実に退屈なストーリーだった。なんでだろう?

           ⑥『風雲児信長』

 監督・マキノ正博 主演・片岡千恵蔵。1940年度の日本映画。ひゃー、とにかく古い。日米戦争開戦前の映画であるから、戦争前にこんなに斬新な作品ができたということに驚嘆しきりである。「尾張の大うつけ」と呼ばれた、戦国の武将・織田信長の青年期を描いた作品である。信長を演じるのが片岡千恵蔵。70年前の昭和初期でもいい男はいい男。千恵蔵は妻夫木君に共通するほどのイケメンぶりだった。因みの「大うつけ」とは、奇行つまりヘンチクリンな行動をする人という意味。こんな性格の幼少期だった信長だからこそ、桶狭間の戦いで今川義元を倒すことができたのだろう。


 この3作はここ2ヶ月の解説作品だが、その中で今回の『ナイアガラ』は、会場にいらしたお客様にとっても、私にとっても、最高の作品だったようだ。会場は50名ほどのお客様で満杯になり、立ち見まで出る勢い。

 マリリン・モンロー。この名前はどんなに若い人でも知っているはずだ。

 ハリウッド最大級のビューティ、世界のセックスシンボル、晩年の謎に満ちた死、ケネディ大統領の愛人であったことなどと、大女優には切っても切れないスキャンダルに満ち溢れていた人生だった。華やかさに隠れた弱さ、繊細さ、正直さもモンローの最大の魅力でもある。

 そのマリリン・モンローを一躍大スターにしたのが、この『ナイアガラ』。朝鮮戦争から精神を病んで帰還した夫(ジョセフ・コットン)に隠れて、若い男との不倫に耽溺する超セクシーな人妻を演じている。恋にのめり込むあまり、恋人と一緒に夫殺害を企てるはらはらドキドキのストーリーに、会場にいるお客様は生唾を飲み込みながら、スクリーンに釘付けになっていらした。


 解説の時、

「実は私のペンネームはマリリンみたいなものですよ。出版した本は「競馬場のマリリン」「三角のマリリン」と題名にはいつもマリリンが入っています。そして、私のハンドルネームもマリリンです。つまり、私にとって、マリリン・モンローは切っても切れない縁がある女優なんです。でも、皆様は私を見て、『お前のどこがマリリン・モンローなんだよ。ふざけるな!』とお思いになるのは十分承知です。もちろん、私はそこまで自信過剰ではございませんよ。アハ(照れ笑い)。でも、わたくしは、マリリン・モンローの生き様に惚れた一人であることには間違いがありません。そして、その生き方は、どこか自分とダブルところがあると思っております。そのあたりのことは、今度ゆっくりとお話しますね」

 会場のみんなが唖然として、笑っていらしたのがおかしかった。

 マリリン・モンローについては、語りたいことが多すぎて、ブログというツールだけではとても表現できない。

 『ナイアガラ』は、マリリン・モンローが27歳の時に出演した作品であり、監督のヘンリー・ハサウェーはモンローに内在する女の色気と魔性を発掘し、世界中に露見させた超貴重なサスペンス作品でもある。

 ナイアガラの滝壷そばにあるホテルで、夜、泊り客だけのパーティが始まる。マリリン・モンローは豊かな胸を強調するようなボディコンのドレスを身にまとい、腰を左右に振り振り、実にセクシーに歩く。

 これが、かの有名な「モンローウォーク」である。そして、このウォークを初めて披露したのも『ナイアガラ』である。

 モンロー・ウォークのセクシーさに、女の私まで目がクラクラしてしまった。

 モンローはその生き方だけでなく、歩き方でも伝説になってしまうほどの偉大な女優なのである。

 こんな素晴らしい女優は2度と現れないでしょうね。

【監督】ヘンリー・ハサウェイ
【出演】マリリン・モンロー ジョセフ・コットン
  アメリカ 1953年度