マリリンの映画日記

エッセイスト瀧澤陽子の映画ブログです!新作映画からオールドムービーまで幅広く綴っております。

闇の子供たち

2008年07月24日 | 映画
『闇の子供たち』をお薦めしていいものやら、どうしようかと迷っていた。

 この作品は映画というエンターティメントをはるかに超え、人間の深遠に迫る、辛い、重いストーリーであるからだ。


 しかし、梁石日(ヤン・ソギル)の原作を、阪本順冶監督が映像にしようと試みた勇気と挑戦心に、対岸の火事では終わらせたくなかった。
 どうしても、襟を正す必要があると思った。

 舞台はタイの幼児売春宿。ここにいる子供たちは、親から二束三文の値段で売られてきた薄幸の子供たちばかりだ。タイの貧富の差が如実に浮き上がってくる。

 夜毎、買春目当てでやって来る欧米人の性の道具として仕事をさせられる。10歳くらいの男の子が、中年のデブの醜い体型のドイツ男に犯される。性に対してなんの免疫もない少年が、ホモセクシャルの巨漢にファックされる。しかも、少年はお金のために喜んでいるフリをしながら、歯を食いしばって我慢しているのだ。
 
 見るのが辛くて、気分が悪くなり吐き気がしてきたが、このシーンをお撮りになった阪本監督はもっとお辛かっただろうなと思い、目を背けずに現実を直視した。

 この幼児売春宿に、自分たちの子供の臓器移植が必要な日本人夫婦が絡んでくる。「お金を出せば、何でも買える」という日本人の奢りに、日本人である私は強烈なアッパーを食らった。

 子供に春を売らせ、それを買う大人がいる以上、幼児ポルノも幼児売春もなくなることはないだろう。性にも目覚めてない子供たちの未成熟な体を弄ぶ異常性愛の大人がいることは、紛うかたない事実である。
 
 あまたある買春、売春の中で、私は子供相手のそれだけは絶対に許すことができない。

 本作に登場する幼児売春宿の子供たちの演技が、あまりにもリアルで迫真の演技だったのも、彼らがタイという国のおかれた状況を心から訴えたかったのだろう。

 もし、あの子供たちが、ギャラが欲しくて出演したのなら、なお一層心が痛むが、そうでないことを祈っている。

 事件の鍵を握るジャーナリストの江口洋介。国際ボランティアの宮崎おあい、フリーカメラマンの妻夫木聡と、若手の売れっ子たちが、この作品に積極的に出演してくれたことにも励まされた。

 この若手俳優たちの人気で、若い人たちが映画館に足を運び、こういったタイの裏側の悲惨な状況や現実を見て、何かを考えてくれたらという絶好の機会を作った問題作でもある。



闇の子供たち 公式サイト


監督・脚本 阪本順治
原作     梁石日
主題歌   桑田圭祐
出演    江口洋介 、 宮崎あおい 、 妻夫木聡 、 佐藤浩市 、 鈴木砂羽

8月2日公開

渋谷シネマライズにて

ダークナイト

2008年07月10日 | 映画
 
 子供だましの茶番だった『バットマン』シリーズに、大人のテイストと深い犯罪心理のエッセンスを加え、素晴らしい作品に甦らせたのが、『バットマンビギンズ』でメガホンを撮ったクリストファー・ノーラン監督だ。

 『バットマンビギンズ』のインパクトは今でも傑作として、強く心に残っている。そして、その続編がやっと出来上がった。『ダークナイト』である。

スタッフもキャストもほとんど変わっていない。

 ブルース・ウェイン(バットマン)はクリスチャン・ベール、執事のアルフレッドは超渋いマイケル・ケイン、ウェイン社の社長でバットマンの秘密兵器のシンクタンクをまたまた、超渋いモーガン・フリーマンが演じている。

 そして、警部補ジム・ゴードンには同じくゲイリー・オールドマンが。ゲイリー・オールドマンが世界一好きな私なので、ゲイリーが画面に出てきただけで興奮してしまう。どちらかというと彼はイカレた悪役がお似合いなのだが、このシリーズでは家族を愛する正義感の強い警部補を演じている。これが、またたまらない魅力なのだ。

 「ヒーローとして死ぬべきか、極悪卑劣な悪党として生き残るべきか」がこの作品のキーワードである。

 舞台も悪党ジョーカーが蔓延るゴッサムシティ。ジョーカーと言えば、1作目であのジャック・ニコルソンが演じていた。ジャックのジョーカーはどこかコミカルなキャラであったが、今回のヒース・レジャーが演じるジョーカーは、無機質で冷酷で、まるで人間殺人兵器のように悪事の限りを尽くしている。この恐ろしさと薄気味悪さは、ジャック・ニコルソンを超えたと言っても過言でない。

 ヒース・レジャーは今年の1月に自宅で変死した。28歳だった。『ブロークバックマウンテン』のあの屈折したホモ男の体当たりの演技も忘れらない。ジョニー・デップとは違った異色の演技派であったので、これからだという時に亡くなってしまった。『スタンドバイミー』で主役を演じたリバー・フェニックスの若い死と同じくらい残念だ。


『ダークナイト』の後にテリー・ギリアム監督の『 パルナッサス博士の想像力』(The Imaginarium of Doctor Parnassus)にも出演し、その撮影中に亡くなってしまったのも、実に惜しい。

まさに、死を覚悟で挑んだと言ってもいいくらい、おどおどろしく、残忍な破壊屋ジョーカーに成りきっていた。

主役はバットマンではなく、今回に限っては、明らかにヒース・レジャーであった。エンドロールで、「ヒース・レジャーに捧げる」というクレジットが流れた瞬間、泣けてきた。

ダークナイト公式サイト
【監督】 リストファー・ノーラン
【出演】クリスチャン・ベイル、ヒース・レジャー、アーロン・エッカート、マギー・ギレンホール、ゲイリー・オールドマン、マイケル・ケイン、モーガン・フリーマン

2008年8月9日より丸の内プラゼールほか全国にて公開

2007,アメリカ,ワーナー配給