パトリス・ルコント監督の作品じゃないか。
現代フランスを代表する巨匠なのに、見た作品は「髪結いの亭主」だけだった。他の作品も見よう見ようと思っているうちに、いつのまにか時期を逸してしまい、見損なっていた。
主役もこれまた、名優ダニエル・オートゥイユ。前作「そして、デブノーの森へ」では、新シャネルミューズになった女優に恋をし、翻弄される役をズシーんと演じていた。フランス映画と言えば、「ファムファタール」をやっていれば、なんとか人を呼べるという典型の作品だ。
今回の「ぼくの大切などもだち」で、オートゥイユは、お金持ちでめちゃくちゃ美人の愛人もいる美術商を演じている。
しかし、彼には親友がいないのが悩み。今さら、いい年したオッサンが、親友探しに東奔西走するなんて、「馬鹿じゃん」と思えるのだが、これがフランス映画のエスプリ。
親友探しの手伝いをしてくれるタクシーの運転手との関わり合いにより、彼は真の友情に目覚めていくのだ。
その目覚め方も、「マジっすか?これって、本当は小学生の時に感じる友情じゃん!」とあっ気に取られるが、ルコント監督の手にかかると、そこに成熟できない中年男の寂しさやペーソスが、上手く表現されているから不思議だ。
日本の定年を迎えたサラリーマンも、会社をリタイヤした瞬間に、自分の人生の全てが会社だったことに気がつき、それは寂しい孤独感に耐えているはずだ。何しろ、「定年した瞬間、年賀状が全く来なくなった」と、定年した友達が愚痴っていた。気がつくと、家庭に引きこもった定年組には、親友どころか、気軽に遊びに行くお友達もいない。
思えば、ルコント監督はそんな日本の企業戦士だったリタイア組にも、熱い勇気と優しいメッセージを送っているのかも知れない。
これは、ちょっと深読みかもしれないけど…。
6月14日から渋谷文化村ル・シネマにて公開
監督・脚本
パトリス・ルコント
出演
ダニエル・オートゥイユ
ダニー・ブーン
ジュリー・ガイエ
ぼくの大切なともだち 公式サイト