マリリンの映画日記

エッセイスト瀧澤陽子の映画ブログです!新作映画からオールドムービーまで幅広く綴っております。

「未来を写した子どもたち」

2008年11月16日 | 映画
 
 映画欄に執筆、取材協力している女性誌「GRACE」(世界文化社刊)は12月号をもって、しばらくお休みになります。来年の秋、どこにもないような個性的で洗練された女性誌に生まれ変わりますので、読者の皆様、引き続き、「GRACE」をよろしくお願いいたします。

 豊川悦司さん、竹中直人さんという、日本映画界を代表する、最高に個性的で最高の演技派の俳優さんと共にお仕事ができたことは、私の財産であります。そして、とても有意義な時間を過ごすことができました。

 編集部の清水千佳子さんと一緒に、選りすぐれた作品に出会うまで、妥協を許さず、数百本の試写を見てきました。帰国子女の千佳子さんの英語の能力はハンパじゃなく、彼女のおかげで海外の映画情報は全て網羅することができました。

 何よりも、清水千佳子さんは、気のいい人、ユーモアの分かる人、そして気配りの人でした。時々、お互いの意見がぶつかることもありましたが、そのやり取りは映画を愛するために生まれた純粋なディベートだったのです。

 ご紹介できる作品はたった3本だけでした。ご紹介できなかった作品の中にも、たくさんの傑作、秀作、名作がありました。千佳子さんと私で、心を鬼にして、3本に絞る。候補から漏れた作品にいつも二人で「ごめんなさいね。紹介できなくて。本当にごめんなさい…。」と、心の中で謝っていました。

 そして、読者の方から、「GRACE」の映画欄を参考に映画を見ているというおたよりを頂いた時、千佳子さんと私は感涙にむせびました。

 原稿の最終チェックをしてくださった、副編集長の石川清子さんの多大なお力にも敬服と感謝です。超ベテランの編集者・清子さんのアドバイスのおかげで、私の原稿は、みるみるうちに立体感を帯び、実に説得力のある原稿に生まれ変わるのでした。清子さんは、まろやかで落ち着いていて、いつも笑顔を絶やさず、ちょっと見には若い頃の女優の八千草薫さんに似ています。そして、書き手は名編集者なくして存在しないと思いました。

 映画作りが1つのプロジェクトに向かって、スタッフが一丸となって粉骨砕身努力し、全力投球するものなら、映画欄のページを作ることも全くそれと似ているのかもしれません。いずれにしても、楽しい思い出ばかりです。

 ということで、今回ご紹介する作品は、竹中直人さんも絶賛なさった『未来を写した子供たち』です。12月号の「GRACE」に竹中さんの映画評が載っておりますので、ぜひともご覧ください。

 本作はインドの売春窟に生きる子供たちがテーマです。売春をしなければ生活できない両親を持つ子供たちの境遇は、大ヒットした邦画『闇の子供たち』とダブる所がありますが、唯一違う点は『未来を写した子どもたち』には希望があるということでしょう。
 
 アメリカから訪れた女性写真家・ザナ・ブリキスが、このインドの不遇な子供たちを救うために、ボランティアで写真を教える。カメラを持ち、自由に写真を撮ることで、暗かった子供たちの表情が活き活きとしてくる。

 ファインダーを通して、今ある不遇から脱出し、希望に満ちた自分たちの未来が見えてくる。まさしく、そのタイトルの通り『未来を写した子どもたち』なのです。

 何よりも、写真家・ザナの無償の救済活動は、「同情するよりも行動しろ」と、強く私に教え導いててくれました。

 ぜひともご覧になっていただきたい、感動のドキュメンタリー映画です!!!

  未来を写した子どもたち公式サイト

11月22日よりシネスイッチ銀座ほか全国にて順次公開

監督 : ロス・カウフマン 、 ザナ・ブリスキ
出演 : コーチ 、 アヴィジット 、 シャンティ 、 マニク




「チェ28歳の革命」「チェ39歳別れの手紙」

2008年11月06日 | 映画
エルネストという名前を聞いてもピンと来ない。「チェ」という響きなら、誰もがあのキューバに平和と平等をもたらした革命家ゲバラの顔が鮮明に浮き上がるだろう。

今年度、カンヌ国際映画祭でゲバラを演じたベニチオ・デル・トロが主演男優賞に輝いた待望の「チェ28歳の革命」「チェ39歳別れの手紙」が来春公開される。

私がゲバラに興味を持ったきっかけは、大先輩の作家・戸井十月さんのおかげである。

『ロシナンテの肋 ~チェ・ゲバラの遥かな旅』(集英社) 『カストロ、銅像なき権力者』(新潮社) 『チェ・ゲバラの遥かな旅』(集英社文庫) 『遙かなるゲバラの大地』(新潮社) と、キューバ革命におけるゲバラとカストロについての戸井十月さんのご著書は全て拝読してあったので、この試写を見た時に、ゲバラの世界にすんなりと入っていくことができた。

戸井さんは数年前にキューバに赴き、現在のカストロご本人とも会っている。直接そのエピソードも伺っていたので、なおさらである。

もちろん、プレス原稿「永遠の旅人・ゲバラ」は戸井さんご本人がお書きになっている。当たり前である。戸井十月さんなくして、誰がゲバラを語れようか。

哲学者ジャン・ポール・サルトルは「20世紀で最も完璧な人間」と言った。
ジョン・レノンは「あの頃、世界で一番かっこいい男だった」と言った。そして、今年アルゼンチンのサッカーチームの監督になった、紆余曲折の人生の人、天才サッカープレイヤーだったマラドーナは、自分の体に崇拝するゲバラのタトゥをしているという。

アルゼンチンの裕福な医者の子供として生まれたゲバラが、南米をバイクで旅し、アメリカの裏側である南米の悲惨な状況に遭遇し、後のキューバ革命の原動力となった傑作『モーターサイクルダイアリーズ』が、ゲバラの人生の序章ならば、今回の「チェ28歳の革命」「チェ39歳別れの手紙」は、ゲバラの人生の全てを綿密に描ききっている。

それぞれの上映時間は2時間15分。2作連続すると4時間30分の超大作であるが、スクリーンに展開するゲバラの生き様を追っているうちに、一気に時間がたってしまう。

ゲバラが28歳で革命を起こした時、私は人妻になった。ゲバラが39歳でボリビアで崇高な死を迎えた時、私は二人の小さな子供の母親だった。

ゲバラの人生に比べたら、私の人生など米粒一つみたいな小さなものに過ぎない。が、しかし、ゲバラは時空を超えて、少し老いて少し弱気になっている私に、「自分の理想に向かって生き続けること、人生は永遠の旅であること」を改めて教えてくれたのだ。


素晴らしい魅力の作品だ。


「チェ28歳の革命」「チェ39歳別れの手紙」公式サイト


【監督】スティーヴン・ソダーバーグ
【出演】ベニチオ・デル・トロ、デミアン・ビチル、フランカ・ポテンテ、カタリーナ・サンディノ・モレノ、ジュリア・オーモンド

2009年新春公開。日劇PLEXほかにて公開