『独裁者と小さな孫』の試写を見てから約一か月後に、パリ同時多発テロが起こった。
この作品の素晴らしさをどう描こうと考えていた矢先に、極悪非道、悲惨なテロに胸を痛めた。犠牲になった人々に哀悼の意を捧げる。
だからこそ、ここにきて『独裁者と小さな孫』の存在意義が大きく浮き上がってくるのだ。
独裁政権に支配されるある国。この作品では決して国を特定していない。架空の国として描いている。つまり、それはアラブの春のその後の国々でもあり、シリアでもあり、どこにでもあてはまるのだ。
主役の老独裁者はクーデターにより幼い孫と共に逃亡を余儀なくされる。一般市民に化け、変装をして逃げ続ける。そこで独裁者は自らが独裁を強いた自国の市民の真実を目の当たりにするのである。
その結論は決してセンチメンタルなものでもなければ、お涙頂戴のものでもない。
一国の独裁者と孫の命が、計り知れない憎しみを持った市民たちの手にかかるまさにその時に、「奇跡」が起こるのである。
暴力は暴力を生み、永遠に続いていく。憎しみは憎しみを生み、永遠に続いていく。いつかはどこかで誰かが断ち切らなければ…。
この作品はそんな警鐘を鳴らしている。
パリの同時多発テロにより、有志国がシリア、イラクのイスラム国への空爆を強化したところで、何も解決にもならないと、『独裁者と小さな孫』が叫んでいるようでならないのだ。
いつも戦争やテロで犠牲になるのは何の罪もない市井の人々であることを、絶対に忘れてはならないのだ!
12月12日から公開
【監督】モフセン・マフマルバフ
【キャスト】ミシャ・ゴミアシュビリ ダチ・オルウェラシュビリ ラ・スキタシュビリ グジャ・ブルデュリ ズラ・ベガリシュビリ