マイアーは、ヨーロッパにロスチャイルド帝国の基礎を築くために、5人の息子たちを、それぞれ矢を放つようにヨーロッパの主要都市に配しました。 ロンドンに配した3男のネイサンについてはすでに述べました。
長男のアムシェル・マイアー(父親の名をひっくり返した名前)は創業の地フランクフルトに留まりますが、次男のサロモンがウィーン、4男のカールがナポリ、5男のジェームズがパリに配されました。
そしてマイアーは、息子たちに、それぞれの国の政治有力者に贈り物・貸付・投資機会などの賄賂を与えることで、特権を獲得してビジネスで成果を上げるよう、徹底的に指導したのです。
1810年9月にマイアーと5人の息子たちがパートナーシップ契約を結んでいます。 フランクフルト・ロスチャイルド商会の資本金を、マイアー48%、アムシェル24%、サロモン24%、カール2%、ジェームズ2%として、利益や損失もこの出資比率で分配することとしました。
マイアーの出資分には、当時ナポレオン戦争のため表面上関係を絶っているように見せていたネイサンの持ち分24%が含まれていました。
また、この契約によって、同商会はM・A・ロスチャイルド・アンド・サンズ(M・Aはマイアー・アムシェルの頭文字、サンズは息子たち)と称することになりました。
注目すベきは、遺産の処分にあたっては、5人の兄弟は平等に5分の1ずつ相続するということ、事業は5人の息子たちのみが携わり、娘や娘婿は口出しする権利も、帳簿を見る権利も与えられないということです。
男子の跡継ぎが生まれなければ、お家断絶となります。
マイアーが遺した4つの家訓
1812年にマイアーが手術の古傷が悪化してなくなる2日前、弁護士を呼んで遺言を書きとらせ、4つの家訓を遺しました。
1、長男がロスチャイルド家の当主(総主)となること。本家も分家も長男が継いでいくこと。
ただし、一族の多数が同意した場合は例外も可で、早速1812年にやり手の三男ネイサンが総主
に選ばれました。
2、いとこ同士の結婚など一族内の結婚によって財産の分散を防ぐこと。
五男ジェームズが1824年に結婚したのは次男サロモンの娘ベッティ、才女にしてパリ社交界の
花形でした。これ以来、ロスチャイルド家では近親結婚が相次ぎます。
マイアーの孫は18組の結婚のうち16組が従兄弟従姉妹同士の結婚でした。 その後も約半分が
一族同士の結婚をするという傾向が続きます。
ただし、女性の側ではさほど厳密には守られませんでした。 厳格な家訓への反抗心もありまし
たが、一族以外の大金持ちのユダヤ人と結婚することは財産を大いに増やすことになりました。
娘たちがユダヤ人以外と結婚するケースもあり、ネイサンの孫娘ハナが後のイギリス首相ローズ
ベリー卿に嫁ぐなど、富裕な貴族と結婚して閨閥を広げていきました。
3、一族の財産を秘匿すること。 財産を裁判所その他の場所で公表しないこと。遺産についても、
法的措置をとらず、いかなる形でも絶対に公表しないこと。
4、一族は間断なく連携すること。 一族の財産を統一的に管理すること。そして、当初の共同経営
者とその男系子孫のみが会社を帰営すること。
ちなみに、このような既定の仕方で一族を保全しようとする処置は、日本の三井家の三井家憲(享保7年、明治33年)と共通しています。ロスチャイルド家と三井家とは歴史的立場や家の性格に通じるものがあります。
・日本の三大財閥の一つで、世界で最も古い歴史を持つ財閥は住友財閥https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/c20f898fe02c3047a9e0f3e8971b583e
・世界最強の財閥・ロスチャイルド家より古い歴史を持つ住友家https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/851659949fd3bf4aa65d9f6c0a13940a
・三井財閥
https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/6d0bb2d7f4aaf01429a8671faf7d590b
・三菱財閥
https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/ff1869da00b5825eccba224f6c98762c
そもそも伝統的にユダヤ人は身内のことについて外部に話しません。 常に迫害を受けてきた歴史から学んだ防衛策です。 そのなかでも、遺言にあるロスチャイルド家の秘密主義は徹底しています。
五男のジェームズが伝えるところによると、「父は、永遠の別れのときに、(中略)我々が緊密にむすびついていること、そして彼の創設した銀行の運営を共同で続けることを求めました。
彼はスキタイ(古代の騎馬遊牧民国家)の王の行為を語りました。 この王は死の床のまわりに息子たちを集め、はじめ強く縛った矢の束を差し出します。誰もそれを折ることはできません。しかし、次に王は矢の束をほどき、一本一本の矢を次々に折っていくのが容易であることを示しました。
『君たちは強力であるだろう。君たちが離れ離れになる日に、君たちの繁栄の終わりが始まるだろう』
日本の「三本の矢」の逸話に通じます。
フランクフルト・ゲットーのユダヤ人として、長きにわたて外界から攻撃を受ける状況にいたロスチャイルド家の人々の鬱屈と緊張は、外界への反発とともに、彼ら内部での禁欲主義と強固な「連帯」を生み出していたのです。
この頃、マイアーが自宅に掲げていた楯章は、フランクフルト市章を模したもので、赤い盾に描かれた一羽の鷲の爪から五人の息子を意味する五本の金の矢が広がるようにあしらわれていたのが特徴でした。
その後も、現在に至るまで、「五本の矢」はロスチャイルド家の誇るべきシンボルであり続けています。
ロスチャイルド・ネットワーク
また、ロスチャイルドの強みは、5人の息子による、5つの商会だけでなく、的確な第林の配置でそのネットワークは強化されました。
代理人には、イタリアのローマなどに毎年派遣される代理人、スペイン・ハバナ・ニューオリンズ・リオデネジャイロなどでの取引に都度派遣される代理人、北西フランスに派遣される常駐の国内代理人、そして国外に派遣される常駐の在外代理人の4タイプがありました。
常駐の在外代理人は、独自の銀行の開設を許され、ロスチャイルド家の「支店」のように機能しました。 彼らは、現地の政治的な領域でも相当の立場を築きました。
ブリュッセル(ベルギー)、マドリード(スペイン)、ニューヨーク(アメリカ)に優れた常駐の在外代理人が派遣されましたが、特に1835年頃にニューヨークに移り住んで大活躍したのが、オーガスト・ベルモントという人物です。
ロスチャイルド家が、ヨーロッパの5都市に加え、それ以外の都市にも卓越した代理人を配置して構築した「広域で迅速な情報網」は、ロスチャイルド家に先行してイギリスを拠点にマーチャント・バンク(国際的な銀行)を大々的に展開していたベアリング家も及びもつかないものでした。
・ロスチャイルド財閥-6 ベアリング家との戦いhttps://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/089dd4046b812a12210b3632618c333f
・ロスチャイルド財閥ー5 皇帝たちの金庫番https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/bf1ef0b119dc91fe01175386fdcfdd16
・ロスチャイルド財閥ー4 金融街シティの誕生https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/51d373b45f326e454062fb2a23aca712
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