インテルのパット・ゲルシンガーCEOは経営を立て直すための戦略が裏目に出た=ロイター
米インテルは2日、パット・ゲルシンガー最高経営責任者(CEO)が1日付で退任したと発表した。
2021年の就任時はインテルを立て直す救世主として期待されたが、人工知能(AI)革命の波に乗れず成長の道筋を描けなかった。苦境の根底には、歴代の経営トップの失策の積み重ねが招いた競争力の低下がある。
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「今日は当然、ほろ苦い(bittersweet)気持ちだ。この会社は私のキャリアの大半を占めてきた」。ゲルシンガー氏は2日、退任発表に合わせた声明で悔しさをにじませた。
正式な後任は決まっておらず、取締役会はこれから新たなCEOの選定を進める。暫定的な共同CEOには最高財務責任者(CFO)のデビッド・ジンスナー氏と製品責任者であるミシェル・ジョンストン・ホルトハウス氏が就いた。
インテルは8月に約1万5000人の人員削減を発表し、24年7〜9月期決算で過去最大となる166億3900万ドル(約2兆5000億円)の最終赤字を計上した。ゲルシンガー氏は低迷する業績の責任をとった形だ。
「退任か解任か」、取締役会が選択迫る
米ブルームバーグ通信によると、ゲルシンガー氏は取締役会から自ら退任するか解任されるかの選択を迫られた。
データセンター向けAI半導体で米エヌビディアが独走するなか、対応策の進捗を議論する先週の取締役会で対立が表面化したという。
エヌビディアは12年にAIの可能性に着目し、AI向け画像処理半導体(GPU)の開発を続けてきた。
22年に米新興のオープンAIが対話型AI「Chat(チャット)GPT」を出すと、生成AIとともに開発用の半導体のブームに火がついた。
インテルはAI向けの半導体開発で後手に回り、製品投入が遅れた。
すでにエヌビディアがAI需要の大半を囲い込んでおり、追い上げに苦戦する。技術革新の潮流に乗り遅れ、挽回への道筋を示せていないことが経営トップとしての信頼低下につながった。
インテルはパソコン向けCPU(中央演算処理装置)では黄金時代を築き、米マイクロソフトの基本ソフト(OS)のウィンドウズとともに「ウィンテル」と呼ばれた。
だがその後は成功体験による慢心から技術の潮流を見誤り、失策を繰り返してきた。
iPhone向け受注逃す、スマホ台頭読めず
象徴的なのはスマートフォンの進化の読み誤りだ。「受注していたら世界は大きく変わっていただろう」。
13年までインテルCEOを務めていたポール・オッテリーニ氏は退任後に米誌アトランティックの取材に対し、米アップルが07年に発売した初代iPhone向け半導体を受注する機会を見送ったことに後悔を示した。
当時を知るインテル元社員は「パソコン向け半導体の高い収益性が、未知数のiPhone向けを受注する足かせになった」と振り返る。
出遅れたインテルは挽回に苦戦し、19年にはスマホ用の通信半導体から撤退した。
インテルは半導体の設計と製造で分業体制が進む潮流も読み切れなかった。両方を手がける垂直統合モデルに長年こだわってきたからだ。
台湾当局主導で台湾積体電路製造(TSMC)が1987年に設立された際、TSMCの実質的創業者、張忠謀(モリス・チャン)氏がインテル中興の祖のアンディ・グローブ氏に面会を取り付けた。よちよち歩きだったTSMCへの資金支援の依頼だった。
半導体メーカーから広く製造を受託するTSMCの事業モデルを一通り聞いたグローブ氏は「良いアイデアではない」と指摘。半導体産業を代表する辣腕経営者2人の面談は物別れに終わった。
技術の潮流は水平分業に移った。TSMCは幅広い企業から先端半導体を請け負い、ノウハウを磨いた。一方でインテルは自前の半導体だけを手がけてきたことで、10年代後半からTSMCに微細化で差をつけられ始めた。
ゲルシンガー氏はTSMCに対する遅れを挽回しようと、自ら受託生産を手がける体制に乗り出した。そのために打ち出したのが米政府の補助金をてこに、米国内を中心に先端半導体の製造能力を増強する戦略だ。
インテルが建設する新工場は計画が遅れている(11月、米オハイオ州)
だが計画は思うように進んでいない。自社向けの半導体製造と他社からの受託は必要となる製造ノウハウが異なる。
受託事業に参入したばかりのインテルに先端品の製造を任せるのはリスクが高く、大口顧客を開拓できていない。
半導体業界に詳しい米ジェイゴールドアソシエイツのジャック・ゴールド社長は「新しいCEOを探すのは容易ではない。業績回復の経験と半導体業界に対する深い理解の両方が求められる」と指摘する。
インテルの正式な経営トップが一時的に不在になるのは初めてではない。18年に不祥事で当時のCEOが辞任した際は、後任が見つからず約7カ月間の暫定体制が続いた。当初は最も適任だと期待されたゲルシンガー氏が退任したことで、インテルの経営の混迷はさらに深まることになる。
(シリコンバレー=清水孝輔、東京=細川幸太郎)
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盤石といわれたIntelの失策は何度かありました。64bit化では互換性よりも性能の伸び代を優先したVLIWプロセッサが市場から受け入れられず命令セット策定の主導権をAMDに取られたこと。
スマホ向けSoCでも1997年にDECからStrongARMプロセッサを譲り受けて、一時はPDA向けSoCで高いシェアを持っていましたがiPhone登場前夜の2006年Marvellに売却しています。
直近の失策は投資を手控えて微細化技術でTSMCの後塵を拝したことですが、x86のエコシステムに支えられていながらNVIDIAやAMDと比べてソフトウェアを軽視した技術開発のツケも無視できないのではないでしょうか。