トーマス・グラバー 第五章 グラバー商会の稼働開始 三番目の兄、ジェイムズの来日 https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/1d738fd79252edd6002105d3dfce4dca
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五代が自分の命に代えても、薩摩藩とイギリスとの戦争を回避したいと思ってはみたものの、キューバ提督の率いるイギリス東洋艦隊は、文久三年六月二十七日、鹿児島錦江湾の海上に偉容を現した。 強力な長距離大砲を備えた七隻である。
ニール代理公使(中佐)もキューバ提督も、この偉容を目のあたりにすれば、薩摩藩主島津公が白旗を挙げて謝罪に来るものとばかり見くびっていた。
ところがどうも、ちょっと様子がおかしい。 白旗を立てて謝罪するふりをして、その実、英海軍と戦う気であると判断した。
事実、薩摩藩ではスイカ売りに扮した決死きり込み隊を一隻の小舟に乗せ、旗艦ユーリアラス号に近づいてきた。
キューバ提督、ニール公使代理は彼らの緊迫した態度を見て、これみよがしにスイカを五、六十個のせているのはカモフラージュであることを一発で見破った。
このため、ユーリアス号のタラップを下すよう彼らが手真似しても、勿論タラップはおろさない。 「やはりバレたか」バレてもともとの彼らは仕方なく引き返していった。
ところが、これでいよいよ白旗を立ててくるものばかりと思っていると、薩摩藩主島津久光は戻って来た決死隊組へ「それではわが島津藩の武力の強さをたっぷりと思い知らせてやれ」との命令を下したのだ。
その少し前、「どうも薩摩藩には降参の気持ちなどないようだ」と判断した英国軍は、錦江湾内を遊弋(ゆうよく)していた薩摩藩の軍艦三隻を急襲し拿捕(だほ)した。これは大正解であった。
七月二日、自藩の船舶三隻が拿捕されたことを知るや、薩摩藩は「戦闘開始」の前触れもなく、英国艦隊を目がけて全砲台が一斉に火を吹いた。
この頃の薩摩藩は倒幕の思惑もあり、三百諸藩の中では一頭地を抜いた砲台をいくつか築いていた。 しかし、総合力ではせかいに冠たる英国艦隊の大砲が圧倒的に優れている事はいうまでもない。
それでも、英国艦隊に向けて刃を磨いていた薩摩藩の大砲は的確に旗艦ユーリアラス号と、陸地近くに碇泊していたパーシューズ号(九五〇トン)を捕らえ、瞬く間に艦長のスリング大佐と副艦長二人、それに七人の水夫が吹っ飛ばされてしまった。
これにはさすがの英国艦隊も大いに驚き、怒り、直ちに艦砲射撃を開始した。 この際、最新鋭のアームストロング砲を搭載していた旗艦ユーリアラス号は、幕府から受け取った賠償金を入れたドル箱が弾薬庫の前に山積みされていて、砲門を開くまでにかなりの時間がかかり、すぐに応戦できなかったという。
それでも世界一の海軍力を誇る英艦は、次々にアームストロング砲の火ぶたを切り、確実に薩摩藩の砲台を破壊し始めた。 そればかりではない。 英海軍の大砲の飛距離は薩摩藩の四倍にも達していたといわれており、砲台を破壊しただけではなく、鹿児島の街をも焼き始めた。
また英国のとっては有難いことに。折から強風が吹き始め、薩摩藩が自慢していた西洋式工場の集成館も火の海となってしまった。 英艦隊は上陸してさらに街中をすべて火の海にすべしとの意見も出た。
しかし、陸に上がると敵はどこから攻めてくるか分からず危険も大きい。 これで薩摩藩も自分たちの負け戦と分かった事だろうとの結論に達し、上陸はせず七月四日、英国艦隊は錦江湾から姿を消した。
しかし、この薩英戦をきっかけに両者は親密な間柄となった。 イギリス側は薩摩藩が予想していた以上に近代的武器を備え、死を恐れぬ闘魂魂を持っていること、また薩摩側はイギリスのアームストロング砲の強力さに感心し、今後イギリスとは仲良くしていこうと考えた。
事実、薩摩藩はこの後しばらくして、十数人の武士たちを留学生としてイギリスへ派遣している。 これにはグラバーが関与していたといわれている。
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このの来日、歴史的に貴重な写真、図、文献なども数多く掲載されている秀逸な作品ですが、それらをPDF化して皆さんに紹介することもできますが、著者と発行所の『長崎文献社』に敬意を払って、全てを紹介するのは、控えたいと考えております。
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