日米両政府は2025年度にも人工知能(AI)を悪用したサイバー攻撃に関する共同研究を始める。
総務省系研究機関がワシントンに拠点を新設し、米国が先行する防御技術と日本が持つ非英語圏で特有な攻撃のデータを組み合わせる。生成AIで急増する懸念がある多言語の攻撃リスクに対処する。
研究拠点は総務省が所管する情報通信研究機構(NICT)が設ける。
NICTから研究者を派遣し、米政府の予算で研究開発する非営利団体マイターなどと協力する。サイバー防御技術に関する米国の最先端の知見を日本のデジタルトランスフォーメーション(DX)に活用する。
米国側のサイバー防御研究は主に英語圏での攻撃が対象で、非英語圏での攻撃データは少ない。
生成AIによる翻訳技術の向上で、これまで非英語圏で使われていた攻撃手法が米国に向けられる恐れが高まっているのを踏まえ、日本が蓄積してきた非英語圏での攻撃に関するデータを活用する。
米国はAIを悪用したサイバー攻撃が国家安全保障上のリスクに匹敵する影響があるとの認識を持つ。
中国への警戒感があり、アジア圏でのサイバー攻撃対処の協力相手として日本を中核に位置づけ、共同研究の拡大に前向きだ。
セキュリティー技術に詳しい早稲田大学の森達哉教授は「米国と日本では専門人材の数で桁が違う。AIを悪用したサイバー攻撃に関しても日本では研究の場が少なく、成果が期待できる」と日米の協力に期待を示す。
生成AIによる技術革新でマルウエア(悪意のあるプログラム)や巧妙な詐欺メールを個人でも簡単に作れるようになった。
イスラエルのセキュリティー大手チェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーズによると、企業などが受けるサイバー攻撃件数は24年7〜9月に世界平均で前年同期比75%増えた。
日本でのサイバー犯罪件数も増加傾向にある。原因として指摘されるのがAIの存在だ。セキュリティー大手のトレンドマイクロは24年9月に警察庁が公表した報告書をもとに生成AIがサイバー攻撃能力を向上させていると警鐘を鳴らす。
AIが多数のサーバーを制御し、大量の通信でサーバーなどの機能をダウンさせる「DDoS」攻撃をしかけたり、脆弱性を見つけてランサムウエア攻撃をしたりする可能性がある。
偽の動画や音声などのディープフェイクで当人になりすまし、機密情報を盗む攻撃も懸念される。
総務省の調査によると生成AIを積極的に活用する方針の企業の割合は日本は2割未満で、米国の46%や中国の71%と比べて低い。
生成AIの活用により「セキュリティーリスクが拡大する」と答えた企業は日本が7割で、米国や中国は8割弱だ。
総務省は生成AIのリスクを軽減しながら活用を促進する必要があるとみて、25年度にもAIを使ったサイバー攻撃への対策指針をつくる計画だ。
AIによるサイバー攻撃の最新事例を紹介する専用のウェブサイトも立ち上げる。
世界のサイバー攻撃に関する情報をAIを使って集め、国内を標的とする攻撃の兆候をできるだけ早く察知する仕組みづくりにも取り組む。