16日にニューヨークで格闘技イベントを観戦したトランプ氏㊧とマスク氏=ロイター
16日にニューヨークで格闘技イベントを観戦したトランプ氏㊧とマスク氏=ロイター
【ワシントン=飛田臨太郎、シリコンバレー=山田遼太郎】
トランプ次期米政権で実業家、イーロン・マスク氏の存在感が高まっている。
トランプ次期大統領の外国首脳との協議に同席し、高官人事への介入も目立つ。電気自動車(EV)大手のテスラなどを率いるマスク氏が政権で影響力を持てば、利益相反との批判は避けられない。
外国首脳との会談にマスク氏の影
マスク氏が大統領選後にトランプ氏と外国首脳との協議に関わった件数は18日時点で、少なくとも3件に及ぶ。
複数の米メディアによると、ウクライナのゼレンスキー大統領やトルコのエルドアン大統領との電話協議に同席した。トランプ氏が唯一、対面で会った首脳であるアルゼンチンのミレイ大統領との面会にも現れた。
マスク氏はトランプ氏が銃撃を受けた直後の7月13日に支持を表明した。
1億8000万ドル(約280億円)を献金するなど、全面的に選挙戦を支援した。トランプ氏は勝利宣言の際にマスク氏を「我々の新しいスター」と持ち上げた。
選挙後は南部フロリダ州のトランプ氏の私邸「マール・ア・ラーゴ」に一緒に滞在している。16日にニューヨークで開催された格闘技イベントは隣で観戦した。マスク氏は自身をトランプ氏の「最初の相棒」と表現する。
マスク氏単独の動きも目立つ。マスク氏は11日にイランの国連大使と面会したと米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)が伝えた。ロシアのプーチン大統領や周辺の高官と2022年から24年にかけて定期的に接触していたと米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが報じている。
ブラジル大統領夫人は嫌悪感
世界の資産額トップで、グローバルにビジネスを展開するマスク氏は外国首脳との個人的な人脈を持つ。23年以降に協議した首脳はおよそ10人に及ぶ。中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席やインドのモディ首相、イスラエルのネタニヤフ首相を含む。
トランプ氏の外交は首脳との個人的な関係やディール(取引)を重視する。マスク氏の動きをテコに使う可能性がある。
米国のローガン法は民間人が米政府の外交問題で外国政府と許可なく交渉することを禁じている。マスク氏はあくまでビジネスのための協議としているが、トランプ氏との関係の近さを考慮に入れると線引きは曖昧だ。
マスク氏はX(旧ツイッター)のアカウント制限を巡りブラジルの最高裁判事の命令に反発するなど、関係が良好とはいえない国も少なくない。ブラジルの大統領夫人は20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の関連イベントで、露骨な表現でマスク氏への嫌悪感を示した。
18日に開幕したG20サミットではトランプ氏への警戒を背景に、中国の存在感が増している。マスク氏を外交で重用すれば、グローバルサウスの大国であるブラジルなどを米国から遠ざけかねない危うさもある。
「共同大統領」のような振る舞い
マスク氏は閣僚などの高官人事にも口を出す。
米紙ワシントン・ポストはマスク氏が財務長官人事に富豪のハワード・ラトニック氏への支持を公言していると報じた。自身が率いる宇宙開発の米スペースXの幹部も政府の要職に就けるよう求めている。
NYTによると、選挙後の1週間ほど、マスク氏はマール・ア・ラーゴでトランプ氏が出席したほぼ全ての会議や多くの食事に同席した。
長くトランプ氏に仕えてきた一部の側近は「露骨な人事介入」と反発。13日の夕食の際には古参の側近とマスク氏が人事を巡る言い争いになったという。
側近の1人は米メディアに「マスク氏は『共同大統領』であるかのように振る舞い、それを皆に知らしめようとしている。だが、大統領は誰に対しても負い目など感じていない」と漏らした。
「息苦しい規制の山を撤廃」
マスク氏がトランプ氏に接近する最大の狙いは規制緩和だ。テスラやスペースXなど、手がけるビジネスが政府の規制に直面することが多かった。
「まるで選手よりも審判の人数が多いスポーツの試合だ」「このままでは何もかも違法になる」と述べ、過剰な規制が技術革新を妨げていると不満を募らせてきた。
トランプ氏は12日に「政府効率化省(通称DOGE)」を立ち上げ、マスク氏をトップに起用すると表明した。マスク氏は「我々はついに、公益に資さない、息苦しい規制の山を撤廃する権限を手に入れた」とXで喜んだ。
DOGEは法的な設置根拠ははっきりとせず「政府外から助言する」(トランプ氏の声明)との位置づけだ。
DOGEで決めた事柄の実現度は、大統領であるトランプ氏が助言を受け入れるか否かに委ねられる可能性がある。
ドナルド・トランプ次期アメリカ大統領に関する最新ニュースを紹介します。11月の米大統領選挙でハリス副大統領と対決し、勝利しました。次期政権の行方などを解説します。
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日経記事2024.11.19より引用