23日の式典で「世界市民賞」をメローニ氏に授与するマスク氏=AP
【ウィーン=田中孝幸】
イタリアのメローニ首相が米連続起業家のイーロン・マスク氏との蜜月関係を誇示している
。23日にはニューヨークで開いた米シンクタンク、大西洋評議会の会合にマスク氏と出席し、賛辞を贈り合った。
マスク氏は11月の米大統領選の共和党候補、トランプ前米大統領を強く支持している。メローニ氏の今回の行動には、トランプ氏が勝利した場合に備える思惑も透ける。
「私に対して美しい言葉をかけていただいたイーロンに感謝したい。そして、我々が生きるこの時代における彼の貴重な才能に感謝する」。
メローニ氏は23日の大西洋評議会の「世界市民賞」を受けた際の式典で語った。
式典ではマスク氏も紹介役としてあいさつに立ち、メローニ氏について「外見よりも内面がさらに美しい人」だと指摘。「誠実で正直、そして思慮深い人」だと強調した。
各国の大半の首脳は、米大統領選で特定候補を支持していると受け取られる言動は控えてきた。内政干渉との非難を受ける恐れがあるうえ、支持した候補が敗北した場合の対米関係の悪化が懸念されるためだ。
それだけに、大統領選まで1カ月半になった段階で「トランプ氏の支持者であるマスク氏に自らを紹介させるメローニ氏の選択は際立っている」(伊有力紙レプブリカ)。
マスク氏は15日にも「誰もバイデン(大統領)とカマラ(副大統領)を暗殺しようとさえしない」とX(旧ツイッター)に投稿し、非難を浴びていた。
メローニ氏があえてマスク氏との蜜月関係を誇示した背景には、連立相手の極右「同盟」のサルビーニ副首相がトランプ氏への支持を鮮明にしているという内政上の事情がある。
極右政党を率いるメローニ氏は政策的に近い立場のトランプ氏を過去に称賛したことがあったが、首相就任後はウクライナ支援で米国と足並みを合わせ、バイデン大統領との関係を強化していた。
一方でサルビーニ氏はウクライナ支援に慎重で、トランプ氏との連帯を繰り返し強調してきた。
メローニ氏はトランプ氏が大統領選で返り咲いた場合、連立政権内でサルビーニ氏の影響力が増す事態を懸念した可能性が高い。
ハリス氏が勝利すれば、トランプ陣営への接近は裏目に出るのは間違いない。
ただ、米側にとってもウクライナ支援などでイタリアと連携を保つメリットは大きいため、対米関係の急速な悪化は避けられると判断したようだ。
マスク氏は、欧州連合(EU)の主要国であるイタリアからの政治的な支持の取り付けを見込む。
偽情報対策を巡る欧州委員会のXへの規制強化の阻止に向け、メローニ氏の協力を期待しているとみられる。
日経記事2024.09.25より引用