経営統合に向けた協議入りについて会見する(左から)
日産自動車の内田社長、ホンダの三部社長、三菱自動車の加藤社長(23日、東京都中央区)
ホンダと日産自動車は23日、新設する持ち株会社のトップと社内外の取締役の過半をホンダが指名すると発表した。
ホンダは経営統合の前提として、経営不振の日産に対しリストラの徹底を求めている。売上高33兆円の世界3位グループへホンダ主導で構造改革を進める。
ホンダ、中国勢やテスラに脅威
「新興勢力は我々のような既存会社がやってこなかったスピードで進化を続けている」。
ホンダの三部敏宏社長は日産との統合の背景に、価格競争力の強い中国勢や米テスラなど新興勢の存在を強調した。
ホンダは2040年までにすべての新車を電気自動車(EV)と燃料電池車にする方針を掲げている。
30年度までに10兆円の巨費を投じるが、経営体制は盤石ではない
世界シェア首位を走る二輪事業で高い利益率を誇る半面、四輪事業では苦戦が続く2024年4〜9月期の連結営業利益は前年同期比で7%増えたが、四輪事業に限ると14%減少となった。
北米でEVの販売奨励金の上昇に直面するほか、中国でも比亜迪(BYD)など地場企業との競争が激化する。経営を効率化しさらにスピードを高めないと、「5〜10年後に勢力図が激変する可能性も十分にある」(三部社長)と危機感を示した。
ホンダ、現状打破へ脱自前主義
ホンダは創業者の本田宗一郎氏以来、自社技術にこだわるなど独立志向が強かった。EVの競争力を高めるソフト開発力で米中の新興勢に劣後する現状を打破するため、自前主義からの脱却を決断した。
日産は量産EV「リーフ」を世界に先駆けて投入するなど電動車開発で長いノウハウがある。ホンダは日産との統合により次世代車の開発効率を高められるとみる。
三部社長は「モビリティーの変革をリードする存在となるには特定分野の協業ではなく、大胆に踏み込んだ変革が必要だ」と経営統合の協議入りを決断した。
統合準備のための委員会を設置し協議を進め、25年6月の最終契約を目指す。
日産の苦境は深刻だ。「非常に厳しい状況になった。(私の)経営責任だと思っている」。日産の内田誠社長は記者会見で、経営不振を問われ陳謝した。
ホンダとの経営統合については、「自主再建の断念ではない」と述べた。
日産は経営の立て直しに向けた本気度が問われている。同社の24年4〜9月期は純利益が192億円と前年同期比で94%減った。
ハイブリッド車(HV)を投入できていない米国や、地場メーカーとの競争が激化する中国市場での苦戦が響く。
日産の内田社長「まず利益出る会社に」
日産は今後3年で世界販売を23年度の年間350万台規模から450万台規模に引き上げる計画を3月に公表したばかりだが、経営不振を受けて目標を事実上撤回した。
内田社長は「350万台レベルでもきちんと利益が出るような会社にまずは再生する」とするが、道のりは容易ではない。
日産は米国や中国、日本などで製造拠点が全23拠点ある。世界生産能力は世界全体で約500万台にのぼり、世界各地で余剰な生産能力を抱える。
自動車業界の一般的な損益分岐点は稼働率が80%程度といわれているなか、50%を下回る拠点も多くあるとみられる。
内田社長は11月、従業員の7%に相当する9000人の人員削減や世界生産能力の2割削減を表明した。まだ具体的な削減計画が明らかになっているのは北米やタイなど一部にとどまる。
日産の方針を受けて、東海東京インテリジェンス・ラボの杉浦誠司氏は「多額のリストラ費用を引き当てる」とみており、25年3月期は4150億円の最終赤字(前期は4266億円の最終黒字)と見積もる。新型コロナウイルス禍の21年3月期(4486億円)以来の最終赤字となる。
杉浦氏はリストラ策が予定通り実施されれば「26年3月期は最終黒字に転換できる」とみるが、日産経営陣の痛みを伴う覚悟が求められる。
ただ、市場関係者からは疑問の声があがる。日産は生産ラインの集約を中心に生産能力の削減を進める方針を示しているが、ナカニシ自動車産業リサーチ(東京・港)の中西孝樹代表アナリストは、達成には工場閉鎖も含めた対応が必要とみる。
中西氏は「最大の原因は企業文化」と指摘し、日産の実行力も懐疑的にみる。経営陣の意思決定の遅れが、米国市場で苦戦を招いたと批判する。
ホンダの三部社長「再建実行が統合の前提」
三部社長は「(日産の経営再建策)『ターンアラウンド計画』の実行は(統合の)前提条件の一つになっている」と強調した。
今回の統合について「日産の救済ではない」とするが、新設会社の主導権はホンダ側が握る姿勢が鮮明となっている。
四輪事業で日産に比べ後発組だったホンダの販売台数は、23年時点で世界7位になった。販売規模に加えて連結売上高や従業員数でも日産を上回り、株価も同社を大きく上回る水準が続く。
ホンダ主導の協議で、重複する地域や分野での再編構想について、円滑に合意点を見いだせるかは不透明だ。両社は主力市場の中国で地場企業との合弁を別々に運営しており、海外子会社や生産体制の再編に向けた調整は一筋縄ではいかない。
日産は12月に入って最高財務責任者(CFO)ら役員の担当替えを発表した。再建がもくろみ通りに進まなければ、ホンダとの協業が揺らぐだけでなく、現経営陣の責任を追及する声が強まりかねない。
大手銀行からは日産とホンダの経営統合を評価する声が上がる。銀行側も構造改革の必要性を強く認識しており、日産の内田社長らとも協議してきた経緯がある。
もっとも経営統合で日産の収益力が劇的に回復するわけではない。「ホンダ頼みになってはいけない」との声もある。
ホンダと日産自動車が12月23日、経営統合へ向けた協議入りを発表しました。
持ち株会社を2026年8月に設立し、傘下に両社が入ります。日産が筆頭株主の三菱自動車の合流も視野に入れます。最新ニュースと解説をお伝えします。
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日経記事2024.12.24より引用