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破綻デトロイト、60年ぶり人口増引っ張る駅舎の再生

2024-12-02 13:34:46 | 米大統領選2024


生まれ変わったミシガン中央駅は町の新たな玄関口になりつつある

 

かつて製造業が栄えた米中西部「ラストベルト(さびついた工業地帯)」の代名詞のような町、ミシガン州デトロイト市が財政破綻して10年あまり。

減り続けていた人口が2023年、約60年ぶりに増加に転じ、若者など新たな流入層も増え始めた。再生のシンボルとなった駅舎を訪ねた。

 

24年10月上旬。米自動車大手、フォード・モーターで電気自動車(EV)などの開発を担当する従業員数百人がデトロイト郊外の本社ビルを離れて1つの場所に集まった。

引っ越し先はデトロイト中心部、コークタウン地区にあるかつての玄関口「ミシガン中央駅」だ。

 

6年にわたる再建を経て、6月に新たなオフィスビルに生まれ変わった。

フォードから28年までに駅を含む再開発地区に2500人の従業員が移るほか、グーグルも入居した。「我々はこの駅のように会社を若返らせる」(フォードのジム・ファーリー最高経営責任者=CEO=)

 

 

衰退の象徴から先端拠点へ

再生前までミシガン中央駅は玄関口どころか、デトロイト衰退の象徴だった。

1988年にミシガン鉄道公社が輸送を停止し駅を閉鎖して以降、建物は手つかずのまま。09年に市議会は建物を取り壊すと決めたが、市民は歴史的建造物を残すべきだと反発した。しかし市に財政的な余裕はなかった。

 


再建プロジェクトチームは市民に聞き取りを重ね、往時の駅舎を再現した(左が再建前、右が再建後)


再建に立ち上がったのがフォードだ。18年、約10億ドル(約1500億円)を投じて18階建ての駅舎を全て購入すると表明。

周辺の物件も購入し、改築資金の大半を拠出するとともに創業家が基金を設立した。駅舎を再生するだけでなく、起業家支援やEVなど先端技術の実証やイノベーション拠点として周辺一体を整備することを決めた。

 

「デトロイトは私の故郷だ。中央駅を復活させ、デトロイトの最強の日々を取り戻す」。

再建された駅舎のホールにはフォードの現会長、ビル・フォード氏の言葉がつづられている。同社がデトロイトで創業して約120年。かつての玄関口を再生し、地域の成長や活性化の原動力にしたいとの思いがにじむ。

 

フォードとの再建プロジェクトを率いた建設責任者、メリッサ・ディットマー氏は「デトロイトで長くビジネスをしてきた私たちにとって、町の将来に何が必要かを考え抜いた結果だ」と語った。

フォードが参画することで単純な歴史的建造物の再建にとどまらず、デトロイトに新たな産業を創出することを見据えた拠点の構想が明確になっていったという。

 

 


再建プロジェクトの責任者、メリッサ・ディットマー氏は「フォードが参画することで
イノベーションの構想が進んだ」と話す

 

再建にはほかの地元企業も協力し、約3000人の熟練工が参加した。

道のりは容易ではなかった。最初の1年半、メンバーに立ちはだかったのは地下や低層部にたまった大量の水だったという。

 

駅舎が最初につくられたのは100年も前だ。資料もほぼ残っていない中で市民に聞き取りを重ねた。

専門のしっくい職人を集めて天井や壁の装飾を往時の状態に戻し、駅舎のシンボルだった時計も再現した。

 

 

60年ぶりに人口増 再開発が加速

プロジェクトを後押ししたのが、町に訪れている変化だ。

国勢調査局によると、13年にあった市の破綻からちょうど10年となった23年、1957年以来減り続けたデトロイトの人口が約60年ぶりに増加に転じた。

 

中央駅周辺のエリアも少しずつ活気が戻り始めた。

大きなきっかけは同市出身の資産家、ダン・ギルバート氏による不動産購入だ。10年にデトロイトで不動産開発会社を立ち上げ、市の破綻を見越して11年から市内で100以上の不動産を購入した。

 

同氏は数十億ドルを投じ、廃虚となったビルを短期間でオフィスやレストラン、ホテルなどに次々と改装。

「ギルバート効果」で中心部の不動産相場は上昇し、若い労働者を呼び込み、中心部の風景が少しずつ変化した。デトロイトを代表する企業の米ゼネラル・モーターズ(GM)が25年に本社を移転するビルもギルバート氏の物件だ。

 

住宅相場は上がったとはいえ、ニューヨークなど他都市に比べて圧倒的に安い。

コロナ禍でリモートワークが定着したことに加え、自動車メーカーがITなどに精通したエンジニアを相次いで呼び込んだことで他都市からも若者らが流入した。

 


破綻後のデトロイトは町中に廃虚が点在していた(写真は2018年の市内の様子)

 

「過去10年間で全てが変化した」。

デトロイトを拠点に取材活動を続けるライター、ポール・アイゼンシュタインさんは町の変貌ぶりを話す。中心部の治安悪化で中流階級が郊外に流出し、自動車産業も衰退する中で税収が減少し、市は13年に破綻した。

 

1950年に180万人以上だった人口は3分の1に減少。

記者が数年前に訪問した際は日中も人が少なく、危険がないかと歩くのをはばかられるほどだった。久々に訪れた町は様変わりしていた。

 

住宅価格上がり格差も

ただ、こうした変化を喜ぶ市民ばかりではない。資金が集まり再開発が進んだ中心部では住宅価格は20年以降で4割以上上昇した。

デトロイトは市民の約8割が黒人労働者だ。黒人層の失業者支援などを行うリチャード・ファレルさんは「再開発バブルで、家の価格は上がり、我々に仕事は回ってこない」と不満を口にする。

 

市内から車で10分も走ると高級住宅街が広がり、格差を象徴する。日本の地方都市で深刻化する「ドーナツ化」現象が米国でも起きている。

「デトロイトは米国の都市が直面した問題を全て経験した」。アイゼンシュタイン氏は、同じように中心部の空洞化が進んだ他の米国の都市にとって再生途上のデトロイトは先行事例になると分析する。

 

再生した駅舎の周りには芝生が広がり、駅舎の夜景を目当てに来る観光客も増え始めた。玄関口の変貌がどこまで波及するだろうか。

 
 
 
 

いま大きく揺れ動く、世界経済。

自分か。自国か。世界か。このコラムでは、世界各地の記者が現地で起きる出来事を詳しく解説し、世界情勢の動向や見通しを追う。 今後を考えるために、世界の“いま”を読み解くコラム。

 

日経記事2024.12.02より引用

 

 

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