経済政策を発表する民主党のハリス副大統領(25日、ピッツバーグ)=AP
【ワシントン=八十島綾平】
米民主党大統領候補のハリス副大統領は25日、東部ペンシルベニア州ピッツバーグで演説し、自身の公約となる経済政策の全体像を明らかにした。
産業分野ではバイオや人工知能(AI)、クリーンエネルギー技術などの先端分野の国内拠点作りを促進する税制をつくり、中国との競争に勝つことを掲げた。
経済政策を巡りハリス氏は、中間層の底上げに向けて誰もが競争に参加して成功の機会を得られる「オポチュニティー・エコノミー(機会の経済)」の実現を掲げる。
産業競争力向上、中国に対抗
ハリス氏は演説で、機会の経済を「3つの柱」の政策で実現すると説明した。
第一の柱は「生活費削減と中間層の支援」で、中間層向けの所得減税や住宅購入支援を進める。第二の柱は「技術革新と起業家への投資」で、起業家に対する税額控除の拡大や、中小企業向けの低利・無利子融資の拡大を掲げる。
この2つは8月から9月にかけて明らかにしていた。
今回は、新たに第三の柱として「中国に勝つための産業競争力向上」を打ち出した。
ハリス氏は「次世代産業分野で国際的なリーダーシップを得るための投資を進める」と話し、バイオ、航空宇宙、AI、量子コンピューティング、ブロックチェーン、クリーンエネルギーを重点的な投資分野に挙げた。
ハリス氏陣営が同日公表した経済政策集では、これらを経済と安全保障に不可欠の分野と位置づけ、産業育成に向けた「アメリカ・フォワード戦略」を作成すると明らかにした。
同戦略のもとで新たな税優遇「アメリカ・フォワード税制」をつくる。鉄鋼生産の近代化や創薬を促進するバイオ技術の開発、AI向けのデータセンター建設、半導体工場の建設などを主な税優遇の対象にする。
ハリス氏は演説で、鉄鋼で栄えたピッツバーグを例にまちづくりに貢献して雇用も増加させるような拠点づくりも税優遇の対象にするとした。
古くなった工場の建て替えや、既存の雇用を守って労働組合と協力して賃金維持に向けた計画作りをした企業も同税制の対象にする。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、アメリカ・フォワード税制が実現した場合は10年間で1000億ドル(約14兆5千億円)の財源が必要になる。
ハリス氏陣営は米国含む約140カ国・地域が2021年に合意した、国際的な法人最低税率の導入で財源をまかなうことを目指すという。
だが国際的な法人最低税率の導入は議会の反発もあり、現状でも全くめどは立っていない。
11月の選挙後の議会構成次第では、アメリカ・フォワード税制は財源も含め全くの「空約束」に終わる恐れもある。
経済政策の評価はトランプ氏がリード
共和党の大統領候補のトランプ前大統領は、ハリス氏の経済政策が「共産主義的だ」と批判してきた。
こうした批判も意識しつつ、ハリス氏は「現実的なアプローチを取る」と強調した。
トランプ氏の政策は大企業・富裕層優遇だと批判し「私は全く異なる(経済政策の)ビジョンを持っている」と強調した。
ただ、直近の複数の世論調査では、経済政策に関する支持はトランプ氏がハリス氏を上回っている。
米CNNが24日に公表した世論調査ではハリス氏を信頼する人(39%)より、トランプ氏を信頼すると答えた人の割合(50%)が多かった。
経済政策の評価はハリス氏のアキレス腱(けん)となっている。
トランプ氏は24日の南部ジョージア州での演説で、経済政策をアピールした。
海外から米国内に生産拠点を戻す企業向けに、税制優遇や規制緩和の恩恵が受けられる「特区」を設ける構想を明らかにした。
他国に流出した製造業の雇用を奪い返すため、メキシコから輸入する自動車に100%の関税を課すとしたほか、研究開発税制をさらに拡大して設備投資費用を初年度に100%控除できるようにする案も披露した。
トランプ氏の経済政策の目玉となっているチップへの所得税非課税は、後にハリス氏が「後追い」して同じ公約を掲げた。
中国からの輸入品への関税を大幅に引き上げる案も、トランプ氏が主張したあとの今年5月にバイデン米大統領が同様の関税引き上げ措置を取ることを表明した。
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ハリス氏が掲げた「バイオ・AI・量子」は日本の重点科学技術政策分野として注力している分野でもあります。
2022年頃から岸田首相の演説で何度も名前が挙がっている産業分野で、スタートアップ新興と合わせて投資が加速しています。
米国が「本場」であり圧倒的に強いバイオ産業ですが、金利上昇とコロナバブルの崩壊により、資金調達環境がこの2年間冷え込み、バイオスタートアップの多くは大規模なレイオフに踏み切る冬の時代を迎えています。
日本も米国と協調してエコシステムを再度盛り上げていく好機かもしれません。
2024年に実施されるアメリカ大統領選挙に向け、ハリス副大統領やトランプ氏などの候補者、各政党がどのような動きをしているかについてのニュースを一覧できます。
データや分析に基づいて米国の政治、経済、社会などに走る分断の実相に迫りつつ、大統領選の行方を追いかけます。
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日経記事2024.09.26より引用