雲跳【うんちょう】

あの雲を跳び越えたなら

元職員/吉田 修一

2008-12-17 | 小説
≪栃木県の公社職員・片桐は、タイのバンコクを訪れる。そこで武志という若い男に出会い、ミントと名乗る美しい娼婦を紹介される。ある秘密を抱えた男がバンコクの夜に見たものとは。≫

 決して納得できる内容ではありませんでしたが、これはこれで吉田修一だな、と、いや、これこそが吉田文学かな?と。主人公「片桐」の中に見える人間の汚さ、厭らしさ、ズルさ、臆病さ、それらはきっと多かれ少なかれ誰でも持っているものだとは思うのだけれど、それから目を背けるな!っていうんじゃなくて、いいじゃん、背けちゃえ!みたいな?逃げる度胸も開き直る度胸もないんだけれど、偽りの平穏を手にするために逃げ場所の確認をしてみたり、わざと大声で笑ってみたり、つくづく人間って滑稽な生き物だよなぁ・・・。

 吉田氏の作品は、やはり、日頃露わにしたくない、なるべくなら意識の底に沈んでいてほしい、目を逸らしていたい自分の醜さを、容赦なく突きつけてくるところに、その真髄があるのだと思います。

 ライトな文体のわりに、全体が澱んでいるのは、バンコクの蒸し暑さのせいだけではないのでしょうね。
コメント (2)
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