12月4日に公示され、16日に投票が行われる総選挙の結果予測を朝日新聞をはじめ全国紙が6日朝刊で報道した。朝日新聞の情勢調査によると、自民は全480議席のうち257~272~285を獲得、最小当選予測数257議席でも単独過半数に達する勢いだ。一方政権与党の民主党の獲得議席は68~81~95と、最大でも公示前の議席数230の約40%にしか達せず、全議席数の20%未満しか獲得できないようだ。
一方、直近の「次の総理は誰が望ましいか」というNHKの世論調査では1位の安倍・自民総裁の25%に対し、野田・民主代表は20%と健闘しており、国民の野田総理への好感度が復活傾向にあることを示していた。このギャップはどこから生じたのだろうか。このギャップが生じたのは、やはり民主が野合政党でしかなく、連合と旧小沢チルドレンを背景に総理を総理とも思わないような振る舞いに出て、事実上民主の実権を掌握してきた輿石体制を、最後の最後の土壇場でひっくり返し、ようやく野田体制を確立した野田氏への信頼感が反映された一方、野合政党に過ぎなかった民主が、いやというほど輿石幹事長に振り回されてきた実態が丸見えになったことへの国民が下した判決でもあった、と解釈するのが妥当であろう。
またいわゆる「第三極」では、政局を左右する勢力になるのではないかと予想されていた「維新」が当選者予測数42~49~57と伸び悩む結果が出た。石原新党と合流した結果、橋下が掲げた「維新八策」の公約があいまいになってしまったのが最大の要因ではないだろうか。それでも公示前議席の11を大幅に更新したのは国民が、やはり「第三極」の主軸を「維新」に期待していることを表したという見方もできよう。
一方「未来」は案の定、現有勢力の61議席を大幅に下回る9~14~20と大きく後退した。代表の嘉田は「卒原発」のいい加減な(つまり科学的根拠が全くない)「工程表」をつくって10年で原発をゼロにするという非現実的な主張を展開し、「この指とまれ」で「脱原発」グループの大同団結を目指した。かつては原発推進のリーダー的存在だった小沢が民主を飛び出して作った新党「小沢の声が第一」を解党してまで未来に合流したものの、すでに政治家としては「死に体」になっていた小沢に対して国民がNOを突き付けたのが最大の要因だったと言えよう。
これらの4大勢力と朝日新聞が見なしていた戦前予想を完全に覆したのは公明党と「みんな」の躍進だった。公明は公示前議席の21を大きく上回る27~31~35と議席を獲得しそうだし、「みんな」も公示前議席の8を大幅に上回る11~18~23議席の獲得が予測された。まず公明が大きく議席数を増やしそうなのは、選挙の行方を大きく左右する「支持政党なし」の大半を占める若者の間で、公明の支持母体である創価学会を選挙活動であまり表面に出さないという作戦が効を奏し、その結果「公明=創価学会」というこれまで定着してきた図式が薄らいできたためと思われる。また「みんな」は「第三極」の2大勢力と朝日新聞が勝手にみなしてきた「維新」と「未来」からの執拗な誘いを受けながら、「基本的政策で一致しない合流は野合だ」と政治の王道を貫き通した「ぶれない」姿勢が国民から大きく評価された結果と思われる。
実はここまでは6日の夜に書いた。朝日新聞が発表した情勢調査についての詳しい分析は7日付朝刊に掲載するというので、この先は朝日新聞の分析を読んでから書くことにしていったん筆を置く。
朝日新聞は今日(7日)付朝刊2面で調査結果の分析を掲載した。「序盤情勢 各党に衝撃」という大見出しは、その通りであるから、論評の対象にならない。この大見出しに次ぐ3本の黒べた白抜きの見出しが朝日新聞の調査結果分析の柱である。
① 民主幹部「解散時期を間違えた」
② 嘆く橋下氏、自民批判強める
③ 安倍氏が檄文「踊らされるな」
この3本の見出しの中でまともなのは③だけである。まだ私は「見出し」だけしか読んでいない。これから朝日新聞の分析の中身を精査してみよう。
で、まず朝日新聞による民主の「敗北」の原因分析を検証してみよう。私は「えっ」とびっくりした。こういう記事を朝日新聞は「分析」と考えているのかと唖然とした。私は前夜(6日)調査結果の各政党の議席獲得予想の数字だけを見て、どうしてそういう数字が調査結果として出たのかの分析をした。私の分析と朝日新聞の分析を比べ、どちらが論理的整合性を満たした分析をしたか、私の分析に私自身がこだわらず、客観的に評価してみたかった。私は8月9日に投稿したブログ『明日にも成立する一体改革法案に国民は納得できるか?』で、野田総理は遅くても8月中に解散するだろうとの予測記事を書いた。その時点では輿石幹事長の力を多少見くびっていた。結果、野田総理の「近いうち国民の信を問う」という解散約束が反故にされ、その後の政局の推移を検証したうえで8月28日『私はなぜ政局を読み誤ったのか? 反省に代えて』と題するブログを投稿し、その反省に踏まえて9月24日には『輿石幹事長は「既定」の人事—今度は私の読みが当たった』と題するブログを投稿した。それ以降私の政局分析はことごとく当たってきた。
なぜか。最初に「読み」が外れた理由をきちんと分析したからである。朝日新聞に限ったことではないが、明らかな誤報以外は主張や分析の検証作業を全くしないのがマスコミだからだ。「失敗は成功のもと」と言うが、それは失敗の原因をきちんと分析究明したケースのみについて言えることで、「犬棒」ではないが、何度も失敗を繰り返せばいつか成功するなどということは絶対にありえない。その反省・分析・原因究明をまったく怠り、ただ「反権力」を錦の御旗にしかしなくなったのが朝日新聞であり、そういう方向性を定着させてしまったのが船橋洋一主筆である。船橋「ジャーナリズム論」批判は終戦記念日前後に公開するつもりだが(船橋氏が主筆になった当時は私はブログ活動をまだしておらず、かなり長文の批判を朝日新聞に送っている)。
それはともかく、朝日新聞の「分析」なるものは野田総理の「政治改革、定数削減は、民主党が勢力を失ったらできなくなる。危機感を持っています」という街頭演説を始め、民主党幹部の嘆き節を羅列しただけだ。たとえばこういうくだりがある。
「党内には低支持率の中で衆院解散に踏み切った首相への恨み節が消えない。党幹部の一人は(※なぜ「輿石幹事長」と特定しないのか)『解散時期を間違えた。来年度予算を組むべきだった。お粗末極まりない』。中部地方の前職は『予想を上回るひどさ。大変な目に合っている。野田さんは戦犯だ』と憤る」
こういう恨み節の羅列は、分析とは言わない。単なるインタビュー報道だ。
「未来」がずっこけたのは当然だが、第三極の柱として期待が大きかっただけに「維新」の橋下氏も落胆の色を隠せないようだ。朝日新聞によれば「今日の新聞報道を読んで嫌になっちゃいました。自公で過半数を取れるというんですね」と街頭演説で嘆いたという。朝日新聞によれば、こういうことだそうだ。
「橋下氏はこれまで日本未来の党の批判を繰り返してきた。未来の『卒原発』に疑問を呈し、第三極内での違いを見せようと懸命だった。だが、この日の演説では原発政策はほとんど語らず、自民党批判を続けた。自民党の国土強靭化政策も『経済を立て直すのにまた公共工事をやる。そんなんで日本が成長しますかね』。(中略)維新内には自公が過半数に届かなければ、選挙後の自民党との連携に前向きな声が根強い。それだけに、ある候補者は『自民党が勝ちすぎれば、維新と組む必要がなくなるのでは』と指摘した」
朝日新聞は「未来」の嘉田氏の声も乗せているが、私はすでに前回のブログで「未来」は泡沫政党でしかないことを書いているので、朝日新聞や嘉田氏が「未来」の停滞を予想外と思ったこと自体が、全く見当違いであることだけを指摘しておく。
一方自民については朝日新聞は安倍総裁の檄文「自民党優勢報道に踊らされ、惑わされ、票固めもせず投票日を迎えれば、勝利を手にすることはできない」を紹介して、党幹部が早くも党内の引き締めにかかっていることを報じた。
ま、要するに朝日新聞の調査結果分析なるものは、この程度の代物でしかなかったということが明確になった。朝日新聞の記者は「分析」と「インタビューや街頭演説などの報道」との違いすらご存じないようだ。はっきり言えば、朝日新聞が7日朝刊2面に掲載した「調査結果分析」なるものは、単なる「数字の説明」に過ぎないということだ。もちろんそれ自体としては無味乾燥な数字の説明は必要だが、数字に表れた国民の総意を解明することを「分析」という。そのくらいのことは新聞記者なら心得ておいてほしい。
また朝日新聞の「分析」は公明や「みんな」の躍進について全く触れていない。朝日新聞は公明や「みんな」を泡沫政党と考えているのだろうか。お粗末な「分析」としか言いようがない。
ではこの調査結果について社説ではどう主張しているかが気になる。社説は「分析」でも「報道」でもなく、新聞社としての主張であり、今回の選挙の意味付けをする場でもある。社説では「まだまだ流動的な要素は多いが、驚きの数字である」という書き出しで、こう分析(※カギカッコは必要ない)している。
「本紙の調査では、投票態度を明らかにしていない人が小選挙区で半数、比例区で4割に上る。(中略)どの政党を、どの候補を選べば政治は良くなるのか。悩み、迷っている有権者の姿が浮かび上がる」「(政治に対する無関心層の増加の)最大の責任が、3年前、あれだけの巨大議席を与えられながら、今の政治の閉塞を招いた民主党にあるのは明らかだ」
それはその通りだが、野合政権がたどった道はすでに細川内閣のときに経験している。政権党の民主党自体が15ものグループ(あえて言えば小政党のようなもの)を抱えた野合政党だった。国会議員数からいえば小沢グループが最大だったが、民主党の最大の支持母体である連合をバックにし、しかも小沢氏が離党した後民主党に残った旧小沢チルドレンをまとめた輿石幹事長が民主党の事実上の実権を握り、肝心の野田総理が身動き取れない状況に陥ったことが政治の混迷を招いた最大の要因であったことを指摘すべきだった。
いま政局を左右するのは無党派層だと言われる。その無党派層が前回の総選挙で民主党を支持したものの、結果的に期待が裏切られ「行き場を失った有権者の消極的な支持」(社説)が自民党に向かわざるを得なかったという分析はその通りだと思う。
「有権者が今、政治に望んでいるものは何だろう」「調査では、日本の政治に求められているのは『政治の仕組みを大きく変えること』か、『今より政治を安定させること』かも聞いた」「36%が前者を選び、54%が後者を選んだ」
なぜか。その解明をしてほしかった。
55年体制を崩壊させたのは無党派層である。彼らは政治の変革を求めた。その結果誕生したのが野合政権の細川内閣だった。初めて政権の座から滑り落ちた自民党は55年体制の対立軸だった社会党と連立して村山内閣をつくり、なりふり構わぬ「禁じ手」で政権の座に返り咲いた。結果的にはこの時の自社連立政権の成立が日本社会党の分裂を招いた。村山が、日本社会党の反自民の最大級のアイデンティティだった日米安保条約をあっさり認めてしまったからだ。
その後自公連立政権が長期にわたって続いた。同じ政権が長期にわたって継続すると、政権内部から腐食が生じ、加速度的に進行していくことは世界の歴史が証明している。無党派層は、そういう状況に敏感に反応する特性がある。それが再び頂点に達したのが前回の総選挙だった。
細川内閣の誕生は、ある意味では偶然の産物だった。たまたま自民党が単独過半数を割った結果、急ごしらえで作られた寄合所帯の政権だった。細川が設立した日本新党は、この寄合所帯の中では相対的多数派でもなかった。「毒にも薬にもならない」お殿様の細川なら何とかまとまるだろうと考えた小沢の画策で誕生した内閣だった。だが、寄り合い所帯の政権を運営すべきノウハウは長期にわたって55年体制が続いた日本には蓄積されていなかった。結局細川は「消費税を廃止し、国民福祉税を創設する」という思い付き的政策を根回しもせずに発表し、それが総理の女房役ともいうべき武村官房長官から一言のもとに拒絶され、それに嫌気がさしたのか政権をさっさと放り出してしまう。
その後は、自社政権を経て自公連立政権が誕生したが、やはり長期化すれば内部から腐食が進行していくことに反発した無党派層がやはり寄り合い所帯の民主党政権を誕生させたということだ。が、先に述べたように民主党そのものが寄り合い所帯に過ぎず、総理も3年間で鳩山→管→野田と短期間で交代し、政策もころころ変わるような政権に無党派層がそっぽを向いたというのが総選挙序盤戦での「自民優勢」という結果に現れたのだろう。
無党派層の無党派層たるゆえんは、この世論調査の結果を見て、自民を大勝させるのもどうか、と態度をコロッと変えかねないことである。あまり早くに「自民優勢」の風が吹くと、自民にとってはかえって逆風にひっくり返りかねないことも計算しておく必要があるだろう。
「アナウンス効果」という言葉がある。様々な社会現象に見られることで、例えば「いじめ自殺」が大きく報道されると、我も我もと「いじめ自殺」者が出たり、一時「流行った」ネットで自殺願望者を募り、見知らぬ人同士が練炭自殺をした事件もアナウンス効果の一つである。
このアナウンス効果が最も影響するのが選挙である。先に述べた2例は同調者が続出するケースだが、選挙においては相反する二つのアナウンス効果があるとされている。
ひとつはある候補者が当落線上で苦戦していることが大きく報道されると、同情票や激励票が集まるケースでアンダードッグ効果(負け犬効果)という。今回のように自民圧勝という調査結果が報道で発表されると、「勝ちすぎは良くない」という心理が国民の間に働いて、無党派層の支持が対立軸の政党に流れるケースもアンダードッグ効果である。
もう一つは小泉郵政解散に現れたように「郵政民営化」派が優勢と伝えられると、雪崩現象的に郵政民営化支持の自民党候補者に票が集中するといった現象で、バンドワゴン効果(勝ち馬効果)という。
今回の調査結果について「みんな」が予想外の大健闘をしていることが大きく報じられ、その理由が第三極として位置づけられてきた「維新」や「未来」から執拗に合流を誘われても、「基本的政策の一致がなければ野合になる」と、あくまで政治の王道を歩んでぶれることがなかったことが大健闘の理由として分析され報道されると、いっきに「みんな」フィーバーが生じる可能性もある。
実は、しばしばみられるのはアンダードッグ効果とバンドワゴン効果が交互に現れる現象である。アメリカ大統領選でも現職のオバマ大統領と対抗者のロムニー候補の優劣はテレビでの公開討論で二転三転したことは皆さんもご存じだろう。数度にわたったテレビ討論の直後に行われた世論調査では最後の最後まで接戦が予想されたが、結果はオバマの大勝で決着した。これはアンダードッグ効果とバンドワゴン効果が交互に作用した典型的なケースである。
今回の総選挙での序盤の世論調査では自民大勝の予測結果が出たが、朝日新聞論説委員が社説で分析したように「行き場を失った有権者(※無党派層)の消極的支持」だったとすれば、次回(中盤)の世論調査では一転自民支持層のかなりが反自民層に変わる可能性はかなり高いと思われる。つまりアンダードッグ効果が働くわけで、この作用が大きすぎると今度は自民にとって有利なアンダードッグ効果が生じる。序盤戦での自民優勢のアナウンス効果が、アンダードッグ効果を生むか、それとも自民に追い風のバンドワゴン効果が作用するかは、ふたを開けてみなければわからない。
なお前回のブログでお約束したTPP問題は次回に書く。ご容赦願いたい。
一方、直近の「次の総理は誰が望ましいか」というNHKの世論調査では1位の安倍・自民総裁の25%に対し、野田・民主代表は20%と健闘しており、国民の野田総理への好感度が復活傾向にあることを示していた。このギャップはどこから生じたのだろうか。このギャップが生じたのは、やはり民主が野合政党でしかなく、連合と旧小沢チルドレンを背景に総理を総理とも思わないような振る舞いに出て、事実上民主の実権を掌握してきた輿石体制を、最後の最後の土壇場でひっくり返し、ようやく野田体制を確立した野田氏への信頼感が反映された一方、野合政党に過ぎなかった民主が、いやというほど輿石幹事長に振り回されてきた実態が丸見えになったことへの国民が下した判決でもあった、と解釈するのが妥当であろう。
またいわゆる「第三極」では、政局を左右する勢力になるのではないかと予想されていた「維新」が当選者予測数42~49~57と伸び悩む結果が出た。石原新党と合流した結果、橋下が掲げた「維新八策」の公約があいまいになってしまったのが最大の要因ではないだろうか。それでも公示前議席の11を大幅に更新したのは国民が、やはり「第三極」の主軸を「維新」に期待していることを表したという見方もできよう。
一方「未来」は案の定、現有勢力の61議席を大幅に下回る9~14~20と大きく後退した。代表の嘉田は「卒原発」のいい加減な(つまり科学的根拠が全くない)「工程表」をつくって10年で原発をゼロにするという非現実的な主張を展開し、「この指とまれ」で「脱原発」グループの大同団結を目指した。かつては原発推進のリーダー的存在だった小沢が民主を飛び出して作った新党「小沢の声が第一」を解党してまで未来に合流したものの、すでに政治家としては「死に体」になっていた小沢に対して国民がNOを突き付けたのが最大の要因だったと言えよう。
これらの4大勢力と朝日新聞が見なしていた戦前予想を完全に覆したのは公明党と「みんな」の躍進だった。公明は公示前議席の21を大きく上回る27~31~35と議席を獲得しそうだし、「みんな」も公示前議席の8を大幅に上回る11~18~23議席の獲得が予測された。まず公明が大きく議席数を増やしそうなのは、選挙の行方を大きく左右する「支持政党なし」の大半を占める若者の間で、公明の支持母体である創価学会を選挙活動であまり表面に出さないという作戦が効を奏し、その結果「公明=創価学会」というこれまで定着してきた図式が薄らいできたためと思われる。また「みんな」は「第三極」の2大勢力と朝日新聞が勝手にみなしてきた「維新」と「未来」からの執拗な誘いを受けながら、「基本的政策で一致しない合流は野合だ」と政治の王道を貫き通した「ぶれない」姿勢が国民から大きく評価された結果と思われる。
実はここまでは6日の夜に書いた。朝日新聞が発表した情勢調査についての詳しい分析は7日付朝刊に掲載するというので、この先は朝日新聞の分析を読んでから書くことにしていったん筆を置く。
朝日新聞は今日(7日)付朝刊2面で調査結果の分析を掲載した。「序盤情勢 各党に衝撃」という大見出しは、その通りであるから、論評の対象にならない。この大見出しに次ぐ3本の黒べた白抜きの見出しが朝日新聞の調査結果分析の柱である。
① 民主幹部「解散時期を間違えた」
② 嘆く橋下氏、自民批判強める
③ 安倍氏が檄文「踊らされるな」
この3本の見出しの中でまともなのは③だけである。まだ私は「見出し」だけしか読んでいない。これから朝日新聞の分析の中身を精査してみよう。
で、まず朝日新聞による民主の「敗北」の原因分析を検証してみよう。私は「えっ」とびっくりした。こういう記事を朝日新聞は「分析」と考えているのかと唖然とした。私は前夜(6日)調査結果の各政党の議席獲得予想の数字だけを見て、どうしてそういう数字が調査結果として出たのかの分析をした。私の分析と朝日新聞の分析を比べ、どちらが論理的整合性を満たした分析をしたか、私の分析に私自身がこだわらず、客観的に評価してみたかった。私は8月9日に投稿したブログ『明日にも成立する一体改革法案に国民は納得できるか?』で、野田総理は遅くても8月中に解散するだろうとの予測記事を書いた。その時点では輿石幹事長の力を多少見くびっていた。結果、野田総理の「近いうち国民の信を問う」という解散約束が反故にされ、その後の政局の推移を検証したうえで8月28日『私はなぜ政局を読み誤ったのか? 反省に代えて』と題するブログを投稿し、その反省に踏まえて9月24日には『輿石幹事長は「既定」の人事—今度は私の読みが当たった』と題するブログを投稿した。それ以降私の政局分析はことごとく当たってきた。
なぜか。最初に「読み」が外れた理由をきちんと分析したからである。朝日新聞に限ったことではないが、明らかな誤報以外は主張や分析の検証作業を全くしないのがマスコミだからだ。「失敗は成功のもと」と言うが、それは失敗の原因をきちんと分析究明したケースのみについて言えることで、「犬棒」ではないが、何度も失敗を繰り返せばいつか成功するなどということは絶対にありえない。その反省・分析・原因究明をまったく怠り、ただ「反権力」を錦の御旗にしかしなくなったのが朝日新聞であり、そういう方向性を定着させてしまったのが船橋洋一主筆である。船橋「ジャーナリズム論」批判は終戦記念日前後に公開するつもりだが(船橋氏が主筆になった当時は私はブログ活動をまだしておらず、かなり長文の批判を朝日新聞に送っている)。
それはともかく、朝日新聞の「分析」なるものは野田総理の「政治改革、定数削減は、民主党が勢力を失ったらできなくなる。危機感を持っています」という街頭演説を始め、民主党幹部の嘆き節を羅列しただけだ。たとえばこういうくだりがある。
「党内には低支持率の中で衆院解散に踏み切った首相への恨み節が消えない。党幹部の一人は(※なぜ「輿石幹事長」と特定しないのか)『解散時期を間違えた。来年度予算を組むべきだった。お粗末極まりない』。中部地方の前職は『予想を上回るひどさ。大変な目に合っている。野田さんは戦犯だ』と憤る」
こういう恨み節の羅列は、分析とは言わない。単なるインタビュー報道だ。
「未来」がずっこけたのは当然だが、第三極の柱として期待が大きかっただけに「維新」の橋下氏も落胆の色を隠せないようだ。朝日新聞によれば「今日の新聞報道を読んで嫌になっちゃいました。自公で過半数を取れるというんですね」と街頭演説で嘆いたという。朝日新聞によれば、こういうことだそうだ。
「橋下氏はこれまで日本未来の党の批判を繰り返してきた。未来の『卒原発』に疑問を呈し、第三極内での違いを見せようと懸命だった。だが、この日の演説では原発政策はほとんど語らず、自民党批判を続けた。自民党の国土強靭化政策も『経済を立て直すのにまた公共工事をやる。そんなんで日本が成長しますかね』。(中略)維新内には自公が過半数に届かなければ、選挙後の自民党との連携に前向きな声が根強い。それだけに、ある候補者は『自民党が勝ちすぎれば、維新と組む必要がなくなるのでは』と指摘した」
朝日新聞は「未来」の嘉田氏の声も乗せているが、私はすでに前回のブログで「未来」は泡沫政党でしかないことを書いているので、朝日新聞や嘉田氏が「未来」の停滞を予想外と思ったこと自体が、全く見当違いであることだけを指摘しておく。
一方自民については朝日新聞は安倍総裁の檄文「自民党優勢報道に踊らされ、惑わされ、票固めもせず投票日を迎えれば、勝利を手にすることはできない」を紹介して、党幹部が早くも党内の引き締めにかかっていることを報じた。
ま、要するに朝日新聞の調査結果分析なるものは、この程度の代物でしかなかったということが明確になった。朝日新聞の記者は「分析」と「インタビューや街頭演説などの報道」との違いすらご存じないようだ。はっきり言えば、朝日新聞が7日朝刊2面に掲載した「調査結果分析」なるものは、単なる「数字の説明」に過ぎないということだ。もちろんそれ自体としては無味乾燥な数字の説明は必要だが、数字に表れた国民の総意を解明することを「分析」という。そのくらいのことは新聞記者なら心得ておいてほしい。
また朝日新聞の「分析」は公明や「みんな」の躍進について全く触れていない。朝日新聞は公明や「みんな」を泡沫政党と考えているのだろうか。お粗末な「分析」としか言いようがない。
ではこの調査結果について社説ではどう主張しているかが気になる。社説は「分析」でも「報道」でもなく、新聞社としての主張であり、今回の選挙の意味付けをする場でもある。社説では「まだまだ流動的な要素は多いが、驚きの数字である」という書き出しで、こう分析(※カギカッコは必要ない)している。
「本紙の調査では、投票態度を明らかにしていない人が小選挙区で半数、比例区で4割に上る。(中略)どの政党を、どの候補を選べば政治は良くなるのか。悩み、迷っている有権者の姿が浮かび上がる」「(政治に対する無関心層の増加の)最大の責任が、3年前、あれだけの巨大議席を与えられながら、今の政治の閉塞を招いた民主党にあるのは明らかだ」
それはその通りだが、野合政権がたどった道はすでに細川内閣のときに経験している。政権党の民主党自体が15ものグループ(あえて言えば小政党のようなもの)を抱えた野合政党だった。国会議員数からいえば小沢グループが最大だったが、民主党の最大の支持母体である連合をバックにし、しかも小沢氏が離党した後民主党に残った旧小沢チルドレンをまとめた輿石幹事長が民主党の事実上の実権を握り、肝心の野田総理が身動き取れない状況に陥ったことが政治の混迷を招いた最大の要因であったことを指摘すべきだった。
いま政局を左右するのは無党派層だと言われる。その無党派層が前回の総選挙で民主党を支持したものの、結果的に期待が裏切られ「行き場を失った有権者の消極的な支持」(社説)が自民党に向かわざるを得なかったという分析はその通りだと思う。
「有権者が今、政治に望んでいるものは何だろう」「調査では、日本の政治に求められているのは『政治の仕組みを大きく変えること』か、『今より政治を安定させること』かも聞いた」「36%が前者を選び、54%が後者を選んだ」
なぜか。その解明をしてほしかった。
55年体制を崩壊させたのは無党派層である。彼らは政治の変革を求めた。その結果誕生したのが野合政権の細川内閣だった。初めて政権の座から滑り落ちた自民党は55年体制の対立軸だった社会党と連立して村山内閣をつくり、なりふり構わぬ「禁じ手」で政権の座に返り咲いた。結果的にはこの時の自社連立政権の成立が日本社会党の分裂を招いた。村山が、日本社会党の反自民の最大級のアイデンティティだった日米安保条約をあっさり認めてしまったからだ。
その後自公連立政権が長期にわたって続いた。同じ政権が長期にわたって継続すると、政権内部から腐食が生じ、加速度的に進行していくことは世界の歴史が証明している。無党派層は、そういう状況に敏感に反応する特性がある。それが再び頂点に達したのが前回の総選挙だった。
細川内閣の誕生は、ある意味では偶然の産物だった。たまたま自民党が単独過半数を割った結果、急ごしらえで作られた寄合所帯の政権だった。細川が設立した日本新党は、この寄合所帯の中では相対的多数派でもなかった。「毒にも薬にもならない」お殿様の細川なら何とかまとまるだろうと考えた小沢の画策で誕生した内閣だった。だが、寄り合い所帯の政権を運営すべきノウハウは長期にわたって55年体制が続いた日本には蓄積されていなかった。結局細川は「消費税を廃止し、国民福祉税を創設する」という思い付き的政策を根回しもせずに発表し、それが総理の女房役ともいうべき武村官房長官から一言のもとに拒絶され、それに嫌気がさしたのか政権をさっさと放り出してしまう。
その後は、自社政権を経て自公連立政権が誕生したが、やはり長期化すれば内部から腐食が進行していくことに反発した無党派層がやはり寄り合い所帯の民主党政権を誕生させたということだ。が、先に述べたように民主党そのものが寄り合い所帯に過ぎず、総理も3年間で鳩山→管→野田と短期間で交代し、政策もころころ変わるような政権に無党派層がそっぽを向いたというのが総選挙序盤戦での「自民優勢」という結果に現れたのだろう。
無党派層の無党派層たるゆえんは、この世論調査の結果を見て、自民を大勝させるのもどうか、と態度をコロッと変えかねないことである。あまり早くに「自民優勢」の風が吹くと、自民にとってはかえって逆風にひっくり返りかねないことも計算しておく必要があるだろう。
「アナウンス効果」という言葉がある。様々な社会現象に見られることで、例えば「いじめ自殺」が大きく報道されると、我も我もと「いじめ自殺」者が出たり、一時「流行った」ネットで自殺願望者を募り、見知らぬ人同士が練炭自殺をした事件もアナウンス効果の一つである。
このアナウンス効果が最も影響するのが選挙である。先に述べた2例は同調者が続出するケースだが、選挙においては相反する二つのアナウンス効果があるとされている。
ひとつはある候補者が当落線上で苦戦していることが大きく報道されると、同情票や激励票が集まるケースでアンダードッグ効果(負け犬効果)という。今回のように自民圧勝という調査結果が報道で発表されると、「勝ちすぎは良くない」という心理が国民の間に働いて、無党派層の支持が対立軸の政党に流れるケースもアンダードッグ効果である。
もう一つは小泉郵政解散に現れたように「郵政民営化」派が優勢と伝えられると、雪崩現象的に郵政民営化支持の自民党候補者に票が集中するといった現象で、バンドワゴン効果(勝ち馬効果)という。
今回の調査結果について「みんな」が予想外の大健闘をしていることが大きく報じられ、その理由が第三極として位置づけられてきた「維新」や「未来」から執拗に合流を誘われても、「基本的政策の一致がなければ野合になる」と、あくまで政治の王道を歩んでぶれることがなかったことが大健闘の理由として分析され報道されると、いっきに「みんな」フィーバーが生じる可能性もある。
実は、しばしばみられるのはアンダードッグ効果とバンドワゴン効果が交互に現れる現象である。アメリカ大統領選でも現職のオバマ大統領と対抗者のロムニー候補の優劣はテレビでの公開討論で二転三転したことは皆さんもご存じだろう。数度にわたったテレビ討論の直後に行われた世論調査では最後の最後まで接戦が予想されたが、結果はオバマの大勝で決着した。これはアンダードッグ効果とバンドワゴン効果が交互に作用した典型的なケースである。
今回の総選挙での序盤の世論調査では自民大勝の予測結果が出たが、朝日新聞論説委員が社説で分析したように「行き場を失った有権者(※無党派層)の消極的支持」だったとすれば、次回(中盤)の世論調査では一転自民支持層のかなりが反自民層に変わる可能性はかなり高いと思われる。つまりアンダードッグ効果が働くわけで、この作用が大きすぎると今度は自民にとって有利なアンダードッグ効果が生じる。序盤戦での自民優勢のアナウンス効果が、アンダードッグ効果を生むか、それとも自民に追い風のバンドワゴン効果が作用するかは、ふたを開けてみなければわからない。
なお前回のブログでお約束したTPP問題は次回に書く。ご容赦願いたい。