黄金期と言われる時期のモーニング娘。のメンバーが毎年卒業していくにつれて、グループの方向性は迷いが見られるようになった。シングルが出る度に路線は変わり、歌のエースが誰であるかも不明瞭になっていくと、さすがにファン離れが加速していった。
一応事務所的には藤本美貴と高橋愛を歌の柱として据えていきたい風には受け取れたが、彼女達は世間が抱くモーニング娘。のイメージ、変な歌を歌い、トークでも笑わせてくれる明るい女の子達というイメージからはズレていたから、それがそのまま「私の見てきたモーニング娘。とちょっと違う」という印象を与えたのだろう。
この世間が抱くモーニング娘。のイメージというものが残ったメンバーを苦しめてきた。リーダーが吉澤ひとみになった頃はモーニング娘。は五期と六期のメンバーが支えていたが、五期も六期も世間のイメージを表現するには持ち味が違いすぎた。
テレビの歌番組に出演すればグループのエースがトークをしなければならないが、モーニング娘。はエースがバラエティ向きではないという欠点をテレビカメラの前で露呈させ、それが影響してかテレビ出演は減っていく。それに比例するようにCD売上も減っていった。
高橋愛は宝塚に憧れ、歌って踊れる表現者の集団としてのモーニング娘。を選んだ人である。テレビで面白い事を言うためにこの世界に入った訳ではない。しかし、世間もファンの多くもグループに求めているものは理想とは違う方向だ。皮肉な事に高橋愛の歌のスキルが上がるごとにCD売上も落ち込んでいったのだ。
リアルファイトを望みながら、ショーを戦わなくてはいけない事に悩むレスラーがいたとして、そのレスラーにファンが望むのは「環境への同化」だろう。しかし、その一方でその理想への実現を願うファンもきっと現れる筈である。
やがて高橋愛の理想に気づき、その考え方に理解を示すファンも現れ始めた。そんな時期に高橋愛の理想と、現在グループが置かれている状況という現実が限りなく譲歩したステージが実現した。「リボンの騎士THEミュージカル」である。
「リボンの騎士THEミュージカル」は宝塚歌劇団の協力の元に行われ、制作スタッフ、出演者に宝塚の関係者が起用された。これはファンにも大いに歓迎され、舞台は好評をもって幕を閉じた。主演を務めた高橋愛は「アイドルのステージ」ではない場所でも輝ける事への証明となったのではないかとファンは喜んだ。ショーをずっとやらされながら、そこに少しずつリアルファイトの匂いを加えてきたレスラーが初めてリアルファイトをしてきた関係者と同じリングに立ち、それなりの闘いを見せる事が出来た。いつか訪れる本当のリアルファイトが出来る日に向けてへの第一歩。例えるならそんな感じだったのであろう。
Mystery of Life (Ribbon no Kishi the Musical)
舞台の後にスタートしたコンサートツアーでは明らかにメンバー達の動きが変わっていた。異業種との融合は決して無駄ではなかったのだ。それまでのモーニング娘。がやってこなかった新次元のステージの幕が開いたのだ。高橋愛の理想がアイドルというステージにも好影響を与える事が可能であるという新事実、それが形となって表れてきたのだ。しかし、本当の苦難はこの後に待っているとは、まだ誰も気づいていなかった。