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宮部みゆき著「火車」を読んで

2012年02月13日 | 読書

 この小説は、推理小説&経済小説である。ローン地獄に落ち、他人になりすまし逃亡者となる新城喬子。これを追う休職中の刑事本間俊介。登場人物たちの微妙な心情が実にきめ細かく描かれている。<o:p></o:p>

 冒頭のエピグラフは、ずばり小説のタイトル。「『火車【かしゃ】』火が燃えている車。生前に悪事をした亡者をのせて地獄に運ぶという。ひのくるま。」<o:p></o:p>

 お気に入りの表現が随所に見られた。<o:p></o:p>

 「智は目を伏せた。そうして、また足をぶらぶらさせた。目に見えない『不機嫌』というスリッパを、そうやって脱ぎ捨てようとしているようだった。」<o:p></o:p>

 「碇は、そば屋のレジでフランス料理並みの代金を請求されるような顔をしていた。」<o:p></o:p>

 「二階の踊り場は、たたみ半畳分にも満たない。そこでワンクッションおくだけで、あとは細かなコンクリートの段々がつらなっており、その下には、硬い灰色の舗装道路が待ち受けている。じっと見おろしていると、なにか落としてみたいような気分になる。騙し絵のなかにはまりこんだようであり、少しでも身体を前に傾けると、魂が胸からこぼれ出てしまいそうだった。」<o:p></o:p>

 「指示されたとおりにして、一時間以上も待たされた。長くは感じなかった。ただ、そのあいだに、おそろしく肩が凝った。圧力鍋に放りこまれて蓋をされたような気がした。自力で容疑者から自供をとったときのことを思い出した。あのころに戻ってしまったような気がした。」<o:p></o:p>

 「だけど、蛇は思ってるの。足があるほうがいい。足があるほうが幸せだって。そこまでが亭主のご高説。で、そこから先はあたしの説なんだけど、この世の中には、足は欲しいけど、脱皮に疲れてしまったり、怠け者だったり、脱皮の仕方を知らない蛇は、いっぱいいるわけよ。そういう蛇に、足があるように映る鏡を売りつける賢い蛇もいるというわけ。そして、借金してもその鏡がほしいと思う蛇もいるんですよ。」<o:p></o:p>

 「倉田は言った。かすかだが、声の調子が狂っていた。まるで、その話をするためには、日常使うことのない、まったく調律されていない鍵盤をひっぱりだしてきてたたかなければならないのだ、というように。」<o:p></o:p>

 「智は考え込んだ。まだ多いとは言えない語彙の範囲内で、できるだけ正確に伝えようとしているのだろう。たとえば、ある晩突然、窓から火星人が飛び込んできて、五分以内に、智の学年では習っていない連立方程式の解き方を説明しないと、さらっていって動物園にいれられちゃうぞと脅されたとしても、これほど真剣に頭をひねることはないかもしれない。」

 

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