とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

女王の棲家

2014-07-24 15:46:23 | 日記
女王の棲家




 ROMNEY, George(1734-1802)作 「 Lady Hamilton」」

 この絵のモデルの名はエマ・ハート。後に駐ナポリ英国大使ウィリアム・ハミルトンの妻となって「ハミルトン夫人(Lady Hamilton)」と呼ばれたが、ナポレオンのフランス艦隊を2度も撃破したイギリス海軍の英雄ネルソン提督の愛人としてヨーロッパにその名を馳せた絶世の美女である。貧困家庭の出身であるが、天与の美貌を利用して男から男へと渡り歩く生活を送るようになった。ロムニーはこの17歳の娘の傑出した美貌に驚嘆し、彼女をモデルにたくさんの肖像画を描く。この絵はそのうちの1枚で、男を誘惑して弄ぶ魔性の女神キルケをエマに見立てて描いた寓意的肖像画である。



 彼女が女王 ? 私は不思議でなりませんでした。類まれな美貌の持ち主だが、多数の人の前に立つような人物には考えられませんでした。どこか親しみを感じる雰囲気で、私のことをよく知っている様子なので、自然に近しい「家族」を感じてしまいました。この女性なら本当に一緒に住みたいと・・・。そんな言葉がつい出てしまったのです。だから、どこに住んでいるのか知りたくなりました。この村のどこかに一人でつつましく暮らしているに違いない。いや、案外、数名の女性神官とともに女の城に立て篭もっているのかもしれない。・・・そんな思いが膨らんできました。狭い村のこと、すぐに家を見つけられるに違いない。私はそう思い立って、外に出ました。そして、通りがかりの女性に声をかけました。


 あのー、そこの家のものですが、司祭の女王様は普段どこにお住まいですか。

 えっ、・・・ああっ、貴方は最近どこかへ長らく出かけてなさったんで、誰かと思いました。ああ、そこのお宮のある家の・・・。

 そうなんです。思い出していただいてどうも・・・。で、どこにお住まいですか。

 それを知ってどうなさるんですか。

 いえ、ちよっと伝えたいことがあるんです。

 またまた、変な気持ちを起こして・・・。

 いやいや、そんなことは・・・。

 ははっ、冗談ですよ。・・・そうだねえ。・・・居場所ねえ、私は、いや、この村の誰も知っていないと思うけど・・・。

 えっ、ど、どうしてですか。

 いやね、朝になるとどこからとなくすっと出てくるんで・・・。まるで、この世のものではないような感じがするけど・・・。

 そうですか。じゃ、どなたも知らないという・・・。

 そうだね。時が経つとそれが当たり前のようになってきて・・・。

 当たり前・・・。

 そうだよ。そうだ、お前さん、今日もお勤めに来るから、会えるじゃない。

 まっ、そうですが。

 そのときが待てないとか・・・、はははっ。

 からかうのはよしてください。


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