アア、ソウデシタ。オモイダシマシタ。ワタシノホウハ、スグニシンダノデハアリマセンデシタ。
「ここは、どこだ」
私たちの車は、海の中の大きな岩の上に落ちていました。車体はぐちゃぐちゃになっていました。
「血だ。血の臭いがする」
私自身の体からその臭いは発していました。そして、強烈な痛みが襲い掛かりました。
「いや、待てよ。この隣りの女からも強い臭いが・・・。誰だ、お前は」
私は、懸命に思い出そうとしました。
「ああっ、そうだ。綾野だ。・・・綾野、お前は死んだのか」
綾野は、白いワンピースを赤く染めて、静かになっていました。
「かわいい。すばらしくいい笑顔をしている」
ワタシノイノチハ、イッセンマン。
「おいおい、思い出すのは止めてくれ。それで、私は、二人の女に、・・・二人の女に対して、・・・ははっ、責任、いや、少しばかりの責任を果たしたのだ。しかし、三人目の女と一緒に死のうとして、・・・いや、私は、まだ、生きている。・・・ということは、私は、殺人を・・・。」
私の、意識は、そう、考えつつ、朦朧としてきました。そして、力を振り絞って、花りんの顔を、思い描きました。
「生き続けてくれ。ご免、こんなお父さんで・・・」
おおっ、大きな波だ。沖の方から、迫ってくる。あの波を被れば、私は、死んでいく。綾野と一緒に死ねる。・・・綾野は、天使になったに違いない。あの笑顔だ。そうに違いない。
波は、車全体に襲い掛かりました。すべて水中に没しました。
「花りん、花りん、さようなら、京子、冴子、・・・お父さん、お母さん、お祖父さん、お祖母さん、さようなら。みんな、ありがとう。ありがとう」
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