「さくらさん、貴方には見えるだろう ?」。六地蔵はさくらに霊話で呼びかけました。「ええ、確かに見えます。懐かしい風景です。あの少女の家も見えます。電信柱は消えましたね」。「貴方の電信柱が取り換えられてから、間もなく道路拡幅工事が始まり。電信柱はずっと遠くに移された。・・・ああ、ところで、あの嵐の時にお前の枝が飛んできて、それが立派な樹に成長した。その樹を女の子に見せたいんだけれど、気幕で覆って見えなくしている。えっ、どうしてかって? ははっ、さやかが森の鳥に術をかけられて病気が治った日、それが今日だ。代わりにお祝いをしてやりたい。いや、大袈裟なことではない。気幕を取り払って満開のさくらを見せるだけだ。・・・女の子は、いや、母親もだけれど、どうしてここに移り住んできたのか、私はその訳をずっと考えていた。さやかは霊体となってからあまり家には帰らなくなった。そのうちに母親が病気で亡くなった。うん、そこだ。父の霊が、おおっ、そうだ、新しい森の主になっているその父の霊が、父の愛と言ってもいい、夢と言ってもいい、ははっ、それが元の家族を、母と子を、またここに呼び出したに違いない。この前、さやかにはちっとも分からないと言ってたんだが、何だか分かった気がした」。六地蔵がそんな話をしていると、窓辺に少女が姿を現しました。六地蔵は念仏を唱えました。
「おおっ、首尾よく気幕が消えた。見事なさくらだ」
窓辺の少女は、驚いて立ちすくんで見入っていました。
そのとき、天空から幾筋もの光が少女に降りかかってきました。まず、三本の太い光線が降りかかり、続いて幾筋もの七色の光線が降りかかりました。少女から驚きの表情が消え、恍惚とした表情になりました。
「お母さん、お母さん、来て、来て。綺麗なさくら、それに不思議な光」
声を聞いた母親が姿を見せました。
「ほんとだ。きれいだね。・・・不思議だね」
そう言うと、大空の彼方から、くわー、くわー、という鳴き声がして、黄金色をした大鳥が姿を現しました。しかし、その姿はすぐに消えてしまいました。
少女たちが一瞬見た大鳥は、黄金の光を辺りに張り付けました。そして、家の辺りが黄金色にいつまでも輝いていました。
私は、少女の姿を花の森の空から眺めていました。そして、山茶花に言いました。
「あの子はどんな大人になるだろうか ?」
「さやかのお友達になるかもしれませんね」
山茶花はそう答えて、笑顔で私を見つめました。 (了)
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