とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

屋根裏部屋

2011-09-29 23:35:16 | 日記
屋根裏部屋



 屋根裏部屋に上がった日から私は急に発熱し、3日間うなされていた。急に体を酷使したためらしい。




 上の写真は今日改めて撮ったものである。私は風邪のための熱に取り付かれて、夢うつつの状態であった。その間、ずっとこの2階のことを考えていた。
 まだ熱が続いているので、休み休みあらましを綴りたいと思う。
 
 屋根裏部屋には照明器具としては蛍光灯が一つあるだけである。机にはスタンドがあったと思うが、今はない。明かり採りの格子がはまった窓からは門扉が見え、だれが訪れたかはすぐ分かる。人声がしたらここの子どもは門扉の方を覗いてみたに違いない。階下からは人声がすぐこの部屋に伝わってくる。
 「管理人」の話によると、ここの家の家族は五十代の夫婦と二十歳くらいの娘(二十歳?確かそう仰ったと思う)が一人で、3人だったらしい。計画的に家を空けて抜け出す理由は一つとして考えられないという話だった。お金や人間関係で困っていたこともなかったそうである。
 すべて計画的で、あらゆる法的な手続きが済んでいて、電気、電話もきちんと契約が解除されている。残りのこの家の所有権だけがもとのままになっていて、固定資産税は役場にきちんと送金されているという。しかも代々の墓も始末し、先祖の位牌はお寺に納め、永代供養お願いしてあるという。
 
 長柄さん、お墓まで始末してあるにもかかわらず、家を売却しなかったのはどうしてですかね。将来また帰ってくるとか、・・・。
 
 それがよく分からないところです。・・・しかし、私はその意思はないと考えています。

 それから、税金の送金元を調べれば、今どこにいるのか分かるのでは、・・・。
 
 いや、私はそこまではしたくありません。

 もしかして娘さんが結婚してひょっこり帰ってくるとか、・・・。

 娘さんも両親と同じで、帰ってくる意思はないと思います。

 私は、数日前の長柄さんとの話を2階で思い出していた。思い出しながら私は、娘さんが住んでいただろうその部屋にいることに対して急に罪意識を抱いた。してはいけないことをしたような気持ちになったのである。

 



 私は階下の囲炉裏のある居間に降りた。主をなくした火の気のない囲炉裏がぽつんとそこにあった。
 
 羽化だ。そうだ羽化だ。私は突然そう呟いた。

 繭の縛りから解き放たれていったのだ。

 繭篭りをしようとしている私、繭から解き放たれた家族。私は混乱していた思いを整理すべくそう呟いた。
 

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箱階段

2011-09-24 23:46:51 | 日記
箱階段




 数日後、私は以前から気になっていた箱階段を上ってみた。この家は一階建てなので、恐らくこの上は屋根裏に違いない。
 
 私はそう思いながら上った。

 案の定、上ると薄暗い屋根裏に出た。

 物置かなあ。最初はそう思っていたが、へりに机が一つ置かれていて、本棚もあった。

 子どもがいたに違いない。私は、そう思いなおした。


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空き家の裏道

2011-09-21 23:01:03 | 日記
空き家の裏道






 私は、今とてもいい気持ちになっています。

 そりゃよかった。と長柄さんは頷いてくれた。

 タタカイ スンデ ヒガクレテ・・・。

 おや、古い歌ですね。軍歌がお好きですか。

 いや、そういうこともないです。しかし、ふと出てくるんです。父がよく唄ってました。

 ・・・。

 今の世の中、戦後の日本みたいな状況ですね。

 ほんとに、次々予想もつかないことが起きる。

 退職しても安穏と暮らせません。私個人も日々タタカイです。

 タタカイ ?

 ええ、タタカイです。生きることはタタカイです、いつの世も。

 ・・・。

 ですから、タタカイの合間に巣篭もりするのです。いや、繭篭りと言った方がいいかも。

 繭篭り ?

 とてもいい家を貸していただきました。ほんとにここが私の繭みたいなものです。すばらしいです。

 ・・・。

 ここで私は自分自身になります。・・・ここは私にとってそういう場所です。ありがとうございます。

 そうですか。そりゃよかった。・・・で、奥さんはここをご存知ですか ?

 いや、いずれ分かるでしょう。家まで車で30分くらいの距離ですから。

 今度は奥さんと来てください。

 いや、まだ早いです。

 そうですか。

 この家の持ち主の方はいずれ帰ってこられるのでは、・・・。

 いや、従弟の私にさえも鍵を預けただけで、何も言わなかったくらいですから、いつのことか分かりません。
 
 どうしてここを出られたんですか。

 いや、私も詳しくは分かりません。ただ、夜逃げでなかったことは事実です。荷物も堂々と明るいうちに全部運び出しましたか ら。

 そうですか。

 だから、私は貴方がここを使っていただくことを喜んでいます。ほんとに、このままではいずれ朽ち果てますから。

 そうですか。しかし、無償でということになると心苦しいです。

 だから、前言ったように掃除をきちんとしていただくことでいいんです。

 そうですか。感謝しています。

 おお、そうだ。教えてあげたいことがあります。

 何ですか ?

 こちらへおいでください。この家は裏道に通じています。

 私は後を付いていった。すると、草木が生い茂った山道に出た。

 この道はどこへ通じていますか ?

 この家の主の住んでいるところです。

 ええっ、ほんとですか。

 いや、冗談です。従兄の家族はこの道から荷物を運び出しました。

 えっ、こんな不便な道を、・・・。

 私はそう言いながらその草深い山道が、何だかもわっとした別世界の入り口のような感じがした。


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空き家の庭

2011-09-18 22:49:18 | 日記
空き家の庭






 作業を進め、やっと何とか庭先だけは草の征伐をした。
 縁側に腰かけて改めて庭を眺めると、大きな樹木がこの庭のメインであることに気づいた。



 この樹は何の樹だろうか。
 私は歴史を刻んできたこの樹木の霊気を感じた。

 畝本さん、大分綺麗になったね。

 管理人の長柄さんが突然声をかけた。

 驚いて振り返ると門扉のところから笑顔でこちらに近づいてくる。

 立派な家ですね。

 この付近では古い方だけど、しっかりした建て方なんでびくともしませんよ。

 この樹は何の樹ですか。

 椋(むく)の木ですよ。家族は大事にしてました。

 これが椋ですか。すごい勢いですね。

 近くのお宮に千年の椋があります。

 千年も生きる、・・・。

 そうです。

 すごいですね。

 その樹の子どもです。

 というと、・・・。

 種を拾ってきて何十年か前、播いたそうです。そしたら、一本だけ芽を出した。そいつを
 大事に育てたんですね。

 長柄さんは縁側に腰かけて言った。

 あんたは独り者、というか、何か事情がありそうな感じだけど、・・・。

 いや、家族がいます。でも、ときどき一人になりたい気持ちになることが、・・・。

 私はそう言いかけて、急に黙り込んだ。


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雑草の征伐

2011-09-17 23:07:29 | 日記
雑草の征伐





 合鍵を作って貰って門扉を開けると、ご覧のような萱の壁が覆いかぶさってきた。
 先ずこれから征伐だ。
 根を掘り起こさないと、またすぐ芽をだす。私は、鍬で掘り起こしながら玄関まで道をつけていった。3時間くらいでやっと玄関までたどり着いた。後の雑草は後で徐々に征伐しよう。
 これまた合鍵で玄関の戸を開けた。
 やっ、意外と綺麗だ。家の中は数日前まで家族がすんでいたかのようにあまり埃臭くない。私はほっとした。しかも住んでいた家族独特の臭いがしない。これは不思議だ。
 私は南の縁側のガラス戸を開けた。やはりそこには雑草の繁茂。こりゃ当分は草とのタタカイだ。
 私は用意した自販のペットボトルのお茶を飲んだ。そして、床にごろっと寝た。不思議だ。生活の臭いが全くしない。家具、いろいろの生活道具は、・・・。私は隅々まで見回した。ない。ちっともない。こりゃ、計画的な引越しだ。でも、誰にも言わずにどこへ引越ししたのか。私は家族の運命を考え始めた。
 それがどうした。私とは何等関係がない。私は、好意に甘えてしばらくここで休ませて貰えばいいのだ。
 ・・・かくして、私は新しい生活空間を確保したのである。



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