私の道。どこへ ?
法善の旅立ちを見送ってからというもの、私は急に落ち着かなくなっていました。電信柱として生きがいを感じていたところ突如この森へ連れてこられたこと、姫神の存在の大きさ、花りんが私に道を示してくれたこと、マーガレットとさやかとの絶対神的な繋がり、それに夥しい樹々の過去世の運命。・・・この森の樹々は何を考え、これからどうしようとしているのか。すべて転生出来るのか。自力本願、他力本願・・・。
私がそんなことを考えていると、その心を逸早く察知したかのようにさやかがふわっと現れてきました。
「お父さん、私についてきてください。いいところへご案内します。途中、森の樹々が囁きかける声に耳を傾けてください。森の樹々はお父さんの心の鏡となってくれます。たくさんの樹に話しかけてください。もし、樹が答えながらぴかっと大きく光ったら、その樹の声は行く末の道のヒントを指し示していると考えてください。・・・では、私についてきてください。出発します」
さやかは後ろの私を振り返り振り返りして森の奥へと入って行きました。私も花りんと何度か森の中を歩き回りましたが、さやかは全く違うコースを進んでいきました。針葉樹の森を抜けると広葉樹の古木、老木の森に出てきました。昼とは言え森の中は靄がかかったように薄ぼんやりとしていました。
「やっぱり広葉樹がいい。落ち着く感じだ。・・・これが全部過去の罪びとなのか・・・」
私がそう呟くと、一帯の樹々が急にざわざわと音を立て始めました。
「おい、新参者、生意気な口を利くな」
どこからともなくそんな言葉が聞こえてきました。
「ご免、いやね、私も罪びと、ははっ、修行中の身です」
「二年や三年で将来の道 ? 笑わせるな。俺は五十年迷いっぱなしだ」
「ご免、それで貴方はどこからおいでなされた ?」
「どこでもいい。お前には関係ないことだ」
「ごもっとも。では、先を急ぎますので・・・」
「おい、待て !!」
「何かご用で・・・」
「誰に会いに行く ?」
「私には分かりません。この娘が案内してくれます」
「何、その方がお前の娘 !!」
「そうですが、それが何か・・・」
「これはお見逸れしました。いつもお世話になっています。私は何度か助けていただいた。私の樹に火を点けて死のうと思ったとき、駆けつけていただいて、心の内をじっくり聞いていただいた。しかも、姫神様、マーガレット様に伝えていただいて、畏れ多くもマーカーレット様に祈祷をしていただいた。ありがたい。それから、私は精進を続けることができた」
「椋木様、貴方はご神木。大願成就まで、そうです、大樹となるまで、もう少しのご精進をお願いいたします」
さやかがそう言うと、その樹は青白い光を発しました。
「お分かりいただけましたか。それでは・・・」
「さやか様、私は光の柱になれますでしょうか ?」
「立派な光の柱になれます。来世では、偉大な神道の教祖となれるお方です。法善に匹敵するお方になれると思います」
さやかと私はあの御霊屋とは反対の方角の森の中に出ました。さやかが急に立ち止まり、上を見上げて祈りました。見上げると、スダジイの老木が聳え立っていました。
「賽の神様、また、さやかが参りました。この度は父を伴って参りました」
「おおっ、さやか、よく来た。法善はまことに首尾よく成就した。何度もここに来て、私にあれこれ尋ねでおった。さすが僧職の身、聞くことが違っていた。濁世を救済する法は何か、と聞いてきた。さすがだ。私は即座に大般若経六百巻を誦しなさい、と勧めた。すると、玄奘三蔵の霊を呼び出し、霊経典を二年で書写し、霊大般若経を完成させ、十年かかって暗誦した。すばらしい僧だ。・・・で、お前は今何を見つめているのか ?」
「えっ、私ですか。見つめる・・・?」
「はははっ、大袈裟に考えるな。今、見えているものは何かということだ」
「む、むすめ、あっ、それもですが、過去のこと、あっ、いや、来世のこと・・・」
「はははっ、もう過去には拘るな。来世と言ったな。来世、ほほう、また人間に戻りたい ?」
「いや、そのことで迷っています」
「はははっ、迷うようなら止めた方がよい。・・・どうだ、私の跡継ぎとしてこの森の導師とならないか」
「えっ、導師、私がでございますか」
「はははっ、さすればお前の樹に花が咲くであろう」
「花が咲く ? どういうことでしょうか ?」
「ははっ、大願成就ということだ」
大願成就。私には程遠い言葉のように思えました。すると、そのスダジイの老木が眩しいほど光り始めました。
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