とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

45 佛神水波

2015-08-26 15:53:54 | 日記


 新樹さん、貴方を宇宙に招待します。
 私を宇宙に・・・?
 そうです。
 突然どうしてですか ?
 マーガレットから頼まれました。すぐ準備してください。
 準備ってどうすれば・・・。
 新樹から抜け出て、気持ちを落ち着けて待っていてください。


 姫神様とそんな話をしながら私はこれからどうなるのだろうと思っていました。体が浮くということは快感を呼び起こす。そういう体験を再現することはどういう・・・。

 「マーガレットは貴方を救いたいようです」

 「救う ? ・・・ということは人間に返るという・・・」

 「私はまだまだ貴方は修行の段階だと思っています」

 「ということは・・・」

 「体感させたいのだと思います。地上の頸木(くびき)から一時解放されるという体感です」

 「体感するとどうなるのでしょう ?」

 「心が軽くなり、生きる姿勢が前向きになります」

 「私という樹にとってそれは必要でしょうか ?」

 「必要だと思います。花りんにも、いや、広くこの森の樹々にとっても」

 「マーガレットから話を聞いた時に、私は大きな真理に気づきました。この森の樹々たちを救う手立ては御霊屋での祈りの修行だけでは遠回りだと思いました。私は奇跡の体験ということも大願成就へ向かわせる力になると思います」

 「で、私がその体感の第1号ということに・・・」

 「表現が悪いです。一切衆生に共通する真理を体感することに順序などありません」

 「そうですか。では、お願いします。姫神様が導いて下さるのであれば、何も不安はありません」

 私の意思を確認すると、姫神様は目を瞑り、両手で2つの円を描きながら祈りの儀式を始めました。何度か円を描くうちに姫神様の体が上昇し始めました。10メートルくらいのところで私を手招きしました。私の体もふわっと浮きました。そして、次第に高くなり、森がすべて見下ろせる位置まで昇りました。・・・浮上するにつれて私の体を縛っていたものが解き放たれる感覚が体中に充満しました。そして、私はうっとりとした気持ちになりました。


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44 恋 ?!

2015-08-22 15:40:02 | 日記


 樹が恋をする ?!  そんなばかな。・・・いや、待てよ、ということは人間に返りたいという欲望が芽生えてきたのか。姫神様、教えてください。あのマーガレット様には会えるでしょうか。どうしてもお会いしたい。会って何を伝えたいのか。いや、ただ会いたいだけ。ということは・・・。そんなことを反問していると、私は、本当に樹から抜け出して、会いに行きたくなりました。
 樹から一人で抜け出せるようになったので、私は次の夜、花りんに気づかれないようにそっとお祈りをして自分の樹から抜け出しました。月明りを頼りに御霊屋の方に歩き始めていました。おい、おい、これは夜這いではないか。神に夜這い ?1 そんなことを思いましたが、足は勝手に動き出して、私を運んでくれました。そして、とうとう御霊屋の奥にある聖廟の玄関に着きました。ノッカーを恐る恐る動かしました。しばらくして耳を澄ますと、奥の方から足音が近づいてきました。玄関のドアが開きました。ところが誰も姿が見えません。

 「あのー、マ-ガレット様でしょうか ?」

 「・・・」

 「お姿が見えません。どうかお姿を・・・」

 「・・・」

 「どうかお姿を・・・」

 「ワタシハマーガレットデハアリマセン」

 声だけが聞こえてきました。しかもその声は合成音のような機械的な響きでした。

 「どうかお姿を・・・」

 やがて白い透明なシルエットが見えました。

 「ワタシハナマエノヨウナモノハアリマセン」

 「では、どうお呼びすれば・・・」

 「ワタシハダレトモハナサナイヨウニシテイマス」

 「あのー、この前、御霊屋で見つめられた時、何とも言えないような不思議な気持ちになりました」

 「ワタシハココロノカガミデス」

 「えっ !! 」

 心の鏡 ? 私は即座にその時の抱いていた自分の気持ちを振り返りました。そして、はっと気づきました。その時私は過去を押し隠そうと必死に思っていました。だからああいう表情に・・・。

 「ワタシハヒカリデス。ウチュウデス」

 「ど、どういうことですか ? 」

 「ヒカリニナレバスベテノナヤミガキエマス」

 「光に・・・」

 私はあの時のたくさんの光の柱を思い出しました。

 「ワタシハヒカリデス。ウチュウデス」

 私はその時すっと体が宙に浮くような快感を感じました。
 


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43 マーガレットのこと

2015-08-18 00:39:39 | 日記


 儀式が終わって、私たちの棲家である樹木に夕方二人は帰りました。樹霊となって暫く私はうとうととしていました。しかし、私の頭の中にはさっきのマーガレットの残像がへばり付いていました。彼女は何ものだろうか。そう思いながら熟睡できずにいました。すると、その思いが姫神様に通じたらしく、夜中に薄明かりを帯びて現れました。新樹さん、もうお休みですか。そう私に仰言いました。

 「姫神様、わざわざどうも・・・、なかなか眠れないでいました」

 「貴方に伝えておきたいことがあって・・・」

 「マーガレットのことですね」

 「ええ、そうです。彼女はああして樹霊たちと行動していますが、実は絶対神の血を引く神です」

 「絶対神 !!」

 「ええ、そうです。ですから私の意思を天に伝えてくれます。そして天のお言葉を私に教えてくれます。普段は御霊屋の奥の小さな聖廟に住んでいます。変幻自在な万能神です。あらゆる面で遥かに私を超えています」

 「姫神様の上に立つお方・・・」

 「ええ、そうです。・・・ああ、それから、さやかの霊に乗り移ることがよくあります。ああ見えて彼女は霊性がとても高い。マーガレットを支えていると言ってもいいと思います」

 「すると、さやかも変幻自在・・・」

 「さやかの今までの行動を見ていて、はっと思われることがあるのでは・・・」

 「実に、その通りです・・・」


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42 初めての仕事

2015-08-13 00:12:47 | 日記


「・・・そうです。ここの森に回された樹木の霊のお清めの祭礼のお手伝いです」。私と花りんは、姫神様のお言葉通り御霊屋での仕事を始めました。蘭の花を祭壇の両脇の壺に活けて、乾燥させた香草を大きな香炉に詰めて火を点けました。すると、部屋中にうっとりするような香りが充満しました。祭壇のステンドグラスの模様を改めてよく見ると、御神体の像が浮かび上がってきました。姫神様のお姿でした。白い正装の凛とした出で立ちで、頭にプラチナのティアラを付け、透き通るように美しい両の手のひらを前に差し出していました。ご主人と娘さんの絵は右手の隅の壁に掛けてありました。

 「花りん、緊張するね」

 「こんなところに私が居ていいかしら」

 「花りんは大丈夫だよ。修行をたくさんしてきたから」

 「お父さん」

 「急に改まって、どうしたんだ」

 「ここで一緒に精一杯仕事して、姫神様のお力で二人とも人間に返していただきましょう」

 「えっ、人間に ?」

 「そう。そうして、お父さんと一緒に暮らしたい」

 「そのことは姫神様にも断っている。私は人間に戻りたくない。いや、花りんと暮らしたい気持ちはあるけど、人間に戻るとまた同じことを繰り返すような・・・」

 「大丈夫。私が付いているから」

 「でも、花りんが結婚するとどうなるか分からない」

 「結婚、結婚ね。・・・しないかもしれない」

 「ははっ、こういうところでこんな話になるとは・・・」

 久しぶりにそんな親娘の話をしているところへ姫神様がふっと姿を現しました。ステンドグラスの衣装の色とは対照的な紺色のドレスでした。

 「ありがとう。準備は滞りなく・・・、あっ、椅子の数が、そうね、もう20脚くらい増やしてください。それと、今日は儀式経験のまだ浅いお方だけですから、初め多少ざわつくかもしれません。ああ、それから、貴方たちに失礼なことをするかもしれません。その点覚悟していてくださいね。ここでは司祭と呼んでください」

 姫神様、いや、司祭は、そう説明し、祭壇の中央に立ち、両手で二つの輪を描くような仕草をしました。そして目をつむり、何か呪文のような言葉を呟きました。すると、部屋の入口から様々の衣服を着た樹霊たちが現れました。心持ち女が多い感じでした。そして、みんなの視線が司祭の左手の壁際に立っている私たちに集中しました。驚いたような声が部屋に反響しました。

 「みなさんにご紹介します。今日から儀式の補佐をしていただくお方です。お二人は親娘ですが、みなさんと同じ樹霊です。修行中のお方です。仲間です。ですから特別な目で見たりしないように・・・」

 二人はその場で黙礼しました。静かになったのを確認して司祭は儀式を始めました。私は一人ひとりを確かめるように顔を見ました。その中に一際美しい女性がいました。はっと思ってその顔を見つめました。その人も私を見ていて、視線がぶつかりました。その途端、虹色の靄が顔をベールのように覆いました。私は、その視線で私の過去があぶりだされるような気持ちになりました。

 「マーガレット ! 前を見て、気持ちを集中してください」

 マーガレット。私は、その女性の霊から強いオーラを感じ取りました。司祭は経験の浅い方たちだと説明しましたが、私は直感的に霊性がすこぶる高い人だと思いました。極端に言うと、司祭の後継者だと思うような人物でした。

 
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41 罪過の火花

2015-08-08 23:26:25 | 日記


 貴女は姫神様・・・? 私は別人のようになって現れた姿を見て、思わずそう言いました。

 「何だか一段と若々しくなられたような・・・」

 「そうですか。私は少しも変わっていないと思いますが・・・」

 「いや、私の錯覚ではありません。確かに少し若くなられました。しかも透き通るようなお姿です」

 「透き通る ? ああ、分かりました。貴方たちに私の罪障を述べたからです。しかも、私たちの家まで出かけていただいた。お花を供えていただいてありがとうございます。そのため夫と娘の霊が喜びのあまり私に乗り移ったからです。今、とても幸せです。家族のぬくもりを感じています。これからは個神としてではなく、合体神として仕事をすることになります」

 「合体神 ? ということはあの家の霊がすべていなくなったという・・・」

 「いえ、あそこにはあそこでちゃんと暮らします。分霊が宿ったのです。・・・ですから私は貴方たちにお願いがあります。私には貴方たちが必要です。私と一緒に御霊屋の仕事をしていただきたいのです」

 「御霊屋の仕事のお手伝い、・・・ですか ?」

 「そうです。ここの森に回された樹木の霊のお清めの祭礼のお手伝いです。私は貴方たちに訪ねていただいてから、大きな悟りを開きました。今まで苦行をして大願成就まで導いてきました。しかし、苦行という手段は樹木にとって過酷でした。私はそれを改めたいのです。御霊屋の祭壇で一心に祈る。限りない回数となりますが、その方が樹木にとって受け入れやすいと思いました」

 「祈りの儀式で私たちは何をすれば・・・」

 「香草や供花の準備、清掃などです」

 「出来るかどうか分かりませんが、ぜひやらせていただきたいと思います。花りんも同じ気持ちだと思います。しかし、私は、私自身の力では霊として動けません。花りんの力を借りなくては」

 「ああ、そうでした。分かりました。では、すぐに儀式をして単体の霊として活動できるようになっていただきます」




 「よろしいでしょうか。これから目を閉じて、一心に祈ってください。私も祈ります。新樹の貴方は、今の雑念、過去の罪障をすべて心の内から外に出すことをイメージしてください。成功すれば、貴方の身内から火花が迸り出ることでしょう。それが、すべて野の花となります。・・・ご覧になったと思いますが、御霊屋の周りの花畑はこの森の樹々の祈りの火花が花となったものです」

 「一心に、一心に・・・」

 「そうです。そうです。・・・ああ、火花がたくさん出てきました」

 「一心に、一心に・・・」

 「そうです。そうです。・・・おおっ、花がたくさん咲いてきました。成功です。成功です。この儀式が終わる頃には、貴方は単体の霊として動き出します」

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