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山の神の予想は的中しました。花りんの霊が新たな夫婦=花神から離脱しました。父親の所業を許せなかったのです。
「私は息苦しいです。山の神様」
「それはどうして ?」
「花神の一部となることはどうしても・・・」
「ははっ、それはもっとも。では出ていくがよい。これから私がその儀式をします。・・・ただ花りん、貴女も花神となることが条件です。たくさんの花木に花を咲かせるには花神は多くいた方がいい。そのために貴女もパートナーを見つけてください。」
「私は一人でも生きていけます」
「はははっ、花りん、貴女の胸の中で渦巻いているものを私は知っています」
「えっ。・・・そんな・・・」
「では、ずばり言い当てましょう。花りん、さやかと親しい男の霊、ははっ、この森の奥の一際大きな樹。・・・泰山木。素晴らしく男らしい。素敵な樹霊」
「そんなお方は知りません」
「ははっ、私は以前見ていました。二人が親しく話しているのを。そこへさやかがやってきて、・・・ははっ、ややこしいことになりましたね」
「そんな・・・」
花りんの頬が赤く染まりました。山の神はその顔を見て微笑みながら分霊の儀式をしました。花りんは白く輝く衣装を身に着けて生まれかわりました。
「ははっ、これでいい。・・・実はね。花りんがさやかと諍いをしていたので、後で私がさやかを呼んで本当の気持ちを問いただしました。好きだそうです。・・・しかし、絶対神の立場にあるものが樹霊と結ばれることは不可能です。掟というのではなく、絶対神は樹霊を受け容れる霊的な仕組みがありません。さやかはそのことを知っていて近づいたのです。よほど魅かれたのでしょう。・・・ははっ、落ち着きましょう。冷静になりましょう。花りん、安心してください。さやかは諦めました」
「それで、彼は・・・」
「安心して下さい。貴方の方に気があるみたいです」
「えっ、・・・」
「貴方は正直ですねえ。顔色にすぐ表れる」
「そんな・・・」
「花りん、彼の過去世を知っていますか ?」
「いいえ、ちっとも。何か・・・」
「自死願望が強くて何度も病院に運ばれました」
「どうして・・・」
「両親が早死にしてお祖母さんと二人で暮らしていました。働いてはいましたが、すぐ辞めてしまうので信用がなくなった。・・・まあ、その先はご想像に任せます。それで、ああ、それで、これからすぐに彼の所へ一緒に・・・」
「ええっ、すぐ行くんですか ?」
「儀式です」
「儀式って・・・」
「結婚の儀式です。はなびらを産むことが出来る花神になっていただきます。負と負の掛け算です」
「何の心構えも・・・」
「要りません。私に任せてください。それとも結婚したくない・・・?」
「そんな・・・」
「じゃ、行きましょう。私の背中に乗って下さい」
山の神はふわっと浮き上がりました。そして山の奥の向かって進んで行きました。
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