ミクストメディアの「予感」
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グルジアのヴァニで発見された女神ニケの像(「Wiki」より)
私はこの像を初めて見て、女神のポーズ、全体的な造形から現代彫刻ではないのかと思った。サモトラケのニケの復元模型を見たことがあるが、比べものにならないほど面白い。翼も見事である。ある神事の一場面を想像させる。
私はこの数日間身動きがとれないほど病的に疲労して、佐山医師に診て貰いながら床に就いていました。横になっていて考えたのは妻のことでした。俺は妻を不幸にしてはいないか。結婚とは何か。これから二人はどうなるのか。などと考えていました。看病というか世話をしてくれる妻がまことに哀れに思えました。しかしどうしたらいいのか。いい考えは出てきませんでした。
それから朦朧とした頭に浮かんでは消えていった場面はあの国立新美術館での出来事でした。それを振り返りながらこれから展開する周囲のドラマを思っていました。春陽展の展示場に入ると一つの絵の前に人だかりが出来ていて、カメラのフラッシュが時々煌いていました。私と長柄さんは後ろから覗き込んで驚きました。大型の作品の横に佐久良さんがいました。カメラマンの求めに応えてポーズをとっていました。そして、各新聞社等の記者のインタビューに明るく答えていました。京子たちはどこにいるんだ。長柄さんが言いました。確かにその作品は京子さんのものに違いありません。しかし本人はどこにもいません。インタビューなら作者本人が中心のはず。しかしその場面の状況はあたかも佐久良さんが作者のように思えたのです。私は近くの人に尋ねました。今日は凰さんだけの取材ですか。すると、この絵のモデルが意外にも有名な俳優の凰だったので、今日取材をお願いしたんです、という答え。私は唖然として次の言葉が出てきませんでした。
「予感」というタイトルですが、どういうイメージを予感しているのですか。
タイトルについては作者にお尋ねください。予感ですか、・・・この絵をじっと見つめてください。理由が分かるはずです。
これは明らかにニケですね、佐久良さんがモデルですね。このコスチュームもいいですね。輝いています。・・・でも、翼がない。
ええ、そうです。・・・しかしよくご覧ください。何か見えてこないですか。
何も見えませんが。
そうですか。じゃ、角度を変えてご覧ください。
・・・おっ、何かかすかに見えてきました。・・・あっ、翼です。見えました。
ありがとうございます。本体は油彩ですが、背景は岩彩です。重ね塗りの下地に翼が描いてあります。遠くからは本体だけしか見えません。
いずれ翼が生え、大空に飛び立つ。それを導くのが天使たちですね。天使たちの姿も効果的ですね。
ええ、出雲の山にニケの像が立っています。夜だけ現れるニケです。
ほほう、幻想的ですね。
佐久良さん、最近、夜、出雲の空に不思議な鳥が現れたとか聞きますが。・・・別の記者が尋ねました。
ええ、そうです。・・・あ、その話はもう止めてください。
どうしてですか。何か都合が悪いことでも・・・。
いえ、何もないです。
じゃ、どうして隠すんですか。
理由はありません。ただ、その話を聞くと私は気分が悪くなります。
えっ、そう仰ると余計に聞きたくなるんですが。
ですから、止めてください !!
あっ、どうも。
じゃ、出雲の劇団に移られた理由は・・・。
それも、ノーコメントです。
京子はどうしたんだ。あいつまるで作者みたいな口の利き方じゃないか。・・・と長柄さんが私の耳元で言いました。すると、人ごみを掻き分けて京子さん夫妻が現れました。
すると、京子さんに質問が集中しました。佐久良さんをモデルに選ばれたのはどうしてですか、とか、どういうご関係ですか、というような絵とは関係のない質問だったので、京子は憮然とした表情になりました。
みなさんは芸能関係の記者ですね。美術関係のお方はいらっしゃいませんか。・・・京子さんが周りを見て言いました。すると手を挙げた男の人がいました。
私は独立展で受賞されたときから取材していました季刊芸術の坂井と申します。この度の特選おめでとうございます。質問ですが、予感をミクストメディアで表す手法が成功していると思いますが、今までの家庭的な雰囲気の作品から神話の世界に転換された理由をお聞きしたいのですが。
ありがとうございます。あまりにもストレートな質問なので答え難いのですが、・・・絵の道から逃れようとした時期がありました、助けてくれたのはここにいる夫でした、それから、一緒に仕事をしてくれた友達にも随分励まされました。それから、出雲への先入観を打ち破るよような出来事が周囲で起こり、もうそれが大きなうねりになっています。あるお方が新しい神話の創生ということを仰いました。私はその言葉に強い示唆を受けました。これだ、新しい神話、神話の神々は世界に羽ばたく、国際的な舞台で純粋な日本的なものを描くのも一つの方法ですが、世界の神々を出雲に招く、これだと思ったのです。
よーく分かりました。早速記事にさせていただきます。
記者たちはその言葉を聞くと、囲みをほどいて帰り始めました。
さすが京子。美術館を出るときに長柄さんが呟きました。・・・それから帰り道、京都で降りて、新阿国座の本部を訪ねました。三朗がすぐに里見オーナーを呼びました。それからオーナーの案内で京都見物をして、夜、料亭に案内されました。すべて初めてのことなので二人は緊張のし通しでした。
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グルジアのヴァニで発見された女神ニケの像(「Wiki」より)
私はこの像を初めて見て、女神のポーズ、全体的な造形から現代彫刻ではないのかと思った。サモトラケのニケの復元模型を見たことがあるが、比べものにならないほど面白い。翼も見事である。ある神事の一場面を想像させる。
私はこの数日間身動きがとれないほど病的に疲労して、佐山医師に診て貰いながら床に就いていました。横になっていて考えたのは妻のことでした。俺は妻を不幸にしてはいないか。結婚とは何か。これから二人はどうなるのか。などと考えていました。看病というか世話をしてくれる妻がまことに哀れに思えました。しかしどうしたらいいのか。いい考えは出てきませんでした。
それから朦朧とした頭に浮かんでは消えていった場面はあの国立新美術館での出来事でした。それを振り返りながらこれから展開する周囲のドラマを思っていました。春陽展の展示場に入ると一つの絵の前に人だかりが出来ていて、カメラのフラッシュが時々煌いていました。私と長柄さんは後ろから覗き込んで驚きました。大型の作品の横に佐久良さんがいました。カメラマンの求めに応えてポーズをとっていました。そして、各新聞社等の記者のインタビューに明るく答えていました。京子たちはどこにいるんだ。長柄さんが言いました。確かにその作品は京子さんのものに違いありません。しかし本人はどこにもいません。インタビューなら作者本人が中心のはず。しかしその場面の状況はあたかも佐久良さんが作者のように思えたのです。私は近くの人に尋ねました。今日は凰さんだけの取材ですか。すると、この絵のモデルが意外にも有名な俳優の凰だったので、今日取材をお願いしたんです、という答え。私は唖然として次の言葉が出てきませんでした。
「予感」というタイトルですが、どういうイメージを予感しているのですか。
タイトルについては作者にお尋ねください。予感ですか、・・・この絵をじっと見つめてください。理由が分かるはずです。
これは明らかにニケですね、佐久良さんがモデルですね。このコスチュームもいいですね。輝いています。・・・でも、翼がない。
ええ、そうです。・・・しかしよくご覧ください。何か見えてこないですか。
何も見えませんが。
そうですか。じゃ、角度を変えてご覧ください。
・・・おっ、何かかすかに見えてきました。・・・あっ、翼です。見えました。
ありがとうございます。本体は油彩ですが、背景は岩彩です。重ね塗りの下地に翼が描いてあります。遠くからは本体だけしか見えません。
いずれ翼が生え、大空に飛び立つ。それを導くのが天使たちですね。天使たちの姿も効果的ですね。
ええ、出雲の山にニケの像が立っています。夜だけ現れるニケです。
ほほう、幻想的ですね。
佐久良さん、最近、夜、出雲の空に不思議な鳥が現れたとか聞きますが。・・・別の記者が尋ねました。
ええ、そうです。・・・あ、その話はもう止めてください。
どうしてですか。何か都合が悪いことでも・・・。
いえ、何もないです。
じゃ、どうして隠すんですか。
理由はありません。ただ、その話を聞くと私は気分が悪くなります。
えっ、そう仰ると余計に聞きたくなるんですが。
ですから、止めてください !!
あっ、どうも。
じゃ、出雲の劇団に移られた理由は・・・。
それも、ノーコメントです。
京子はどうしたんだ。あいつまるで作者みたいな口の利き方じゃないか。・・・と長柄さんが私の耳元で言いました。すると、人ごみを掻き分けて京子さん夫妻が現れました。
すると、京子さんに質問が集中しました。佐久良さんをモデルに選ばれたのはどうしてですか、とか、どういうご関係ですか、というような絵とは関係のない質問だったので、京子は憮然とした表情になりました。
みなさんは芸能関係の記者ですね。美術関係のお方はいらっしゃいませんか。・・・京子さんが周りを見て言いました。すると手を挙げた男の人がいました。
私は独立展で受賞されたときから取材していました季刊芸術の坂井と申します。この度の特選おめでとうございます。質問ですが、予感をミクストメディアで表す手法が成功していると思いますが、今までの家庭的な雰囲気の作品から神話の世界に転換された理由をお聞きしたいのですが。
ありがとうございます。あまりにもストレートな質問なので答え難いのですが、・・・絵の道から逃れようとした時期がありました、助けてくれたのはここにいる夫でした、それから、一緒に仕事をしてくれた友達にも随分励まされました。それから、出雲への先入観を打ち破るよような出来事が周囲で起こり、もうそれが大きなうねりになっています。あるお方が新しい神話の創生ということを仰いました。私はその言葉に強い示唆を受けました。これだ、新しい神話、神話の神々は世界に羽ばたく、国際的な舞台で純粋な日本的なものを描くのも一つの方法ですが、世界の神々を出雲に招く、これだと思ったのです。
よーく分かりました。早速記事にさせていただきます。
記者たちはその言葉を聞くと、囲みをほどいて帰り始めました。
さすが京子。美術館を出るときに長柄さんが呟きました。・・・それから帰り道、京都で降りて、新阿国座の本部を訪ねました。三朗がすぐに里見オーナーを呼びました。それからオーナーの案内で京都見物をして、夜、料亭に案内されました。すべて初めてのことなので二人は緊張のし通しでした。
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