とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

14 妖

2015-02-23 11:21:36 | 日記


 夕焼け空 ? 見渡す限りの雲が紅蓮の炎をあげて燃え上がっているような・・・。何か不吉なことが起こりそうな・・・。私は辺りを見回しました。すると、地の底から人影が浮かび上がってきました。よくよく見ると、女の後姿。長い髪が雲の色に染まっていました。
 




 「お前は誰だ」

 私は恐る恐る訪ねました。しかし、含み笑いのように声が響きわたるだけで、返事はありません。

 「六地像さん、六地像さん、助けてください !!」

 私は思わず叫びました。しかし、何にも応えてくれません。その代わり、その女の声が私に絡みつくように響いてきました。

 「忘れてはいないはず。・・・お前に殺された冴子です」

 「えっ、冴子。ど、どうしてここへ・・・」

 「言い残していたことがあります」

 「な、なんのことだ !!」

 「私と一緒に家を出た花りんは、病気で死んだのではない。私と同じように殺された。ははっ、私の目の前で・・・」

 「だれが殺した !!」

 「京子、そう、貴方の妻」

 「えっ、京子が・・・、そんな・・・」

 「嘘だ、嘘だ !! 京子は病院にいた !!」

 「ははっ、ところが、いつの間にか私の家の中に忍び込んで・・・」

 「やめろ !!」

 「はははっ、子どもが出来ないからと言って、・・・あまりにもひどいことを・・・。ははっ、もしかして、お前が殺させたのでは・・・」

 「なに !! そ、そんなことはない !!」

 「私は、花りんの望みを叶えてやりたいと一心に努力した」

 「努力 ?」

 「そうだ。学費を、生活費を・・・」

 「恩着せがましい。あんなちっぽけなお金は何にもなりゃしない」

 「なに !!」

 「京子は、私が呪い殺した」

 「冴子 !! お前を私は殺してはいない !!」

 私は必死に叫びました。叫べば叫ぶほど、その黒い影はますます大きくなり、消えようとしません。六地像さん !! 六地像さん !! 私は声の限りに叫びました。

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13 焼け跡から

2015-02-18 23:38:20 | 日記


 おおっ !! 地蔵さま、いや、六地像さま、あの、あの女は何者ですか !!
 私は、すらりとした美しい女が夜明けの野原を山に向かって歩いてゆくの姿を見つけるや、そう叫びました。叫びながら全身が震えていました。

 「ありがたい。ありがたい」

 「ありがたい ?」

 「そうじゃ、あのお方は、あの大鳥じゃ」

 「あの大鳥 ?」

 「そうじゃ、ここの地に降りられたのじゃ。・・・これから山に帰って行かれる」

 「山に ?」

 「そうじゃ、あの娘の父親の霊も住んでいるあの山じゃ」

 「鳥になった父親も、恐らくあの姫神さまにお仕えしているに違いない」

 「姫神さま ?」

 「そうじゃ、私もこうして姿を変えていただいた。ここの地をお守りになっている女神さまじゃ。私は、これからは、姫神さまのご加護によって布施行を続けていくことになった」

 「では、ここの私のように転生したもの、いや、まだのもの、すべてを守ってくださる・・・」

 「そうじゃ。・・・ただ、もうこれからはよほどのことが起きないかぎり、お姿を見ることはできないだろう」

 「そうですか。分かりました。これからは六地像さまとともにあの女神さまも拝みたいと思います」

 「それがいい。お前の前世の悪業もすべて清められる」

 「悪業・・・ですか。ははっ、数えきれないほどありました」

 「生まれ変わりたいだろう、本心は」

 「一旦電信柱に転生したものが、わがままは言えません。これでいいのかも知れません」

 「はははっ、根性が歪んでいる。本音は透けて見えている」

 「いや、いや、六地像さま、これでいいのです」

 「ははっ、まあ、今はそれでいいとしよう」

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12 救 済

2015-02-16 00:16:33 | 日記
 さやかと花りん。その霊が浮遊する夜が続きました。私はそのしなやかな舞を楽しみにしていました。これが電信柱の醍醐味だと喜んでいたのでした。
 ところが、ある夜、その霊に突如雷の閃光が襲い掛かったのです。瞬時の出来事でした。


(手塚治虫「火の鳥」より)

 ところが辺りが昼のように明るくなって、次の瞬間、輝く大鳥が現れました。雷の閃光はその翼に反射して、空の彼方に飛び散りました。大鳥の両翼に抱かれ、娘の霊は無事にまた森に帰っていきました。




 「おい、おい、電信柱さん」

 私を呼ぶ声の方を見ると、なんと六地蔵が並んでいました。

 「あの地蔵さん ?」

 「そうだよ」

 「えっ、な、なんという・・・ !!」

 「ははっ、驚いたね。あの大鳥は摩訶不思議な力を持っている。雷のエネルギーを私にくれたよ。お陰で念願の六地像に生まれ変わることが出来た」

 「私にとって眩しすぎます」

 「いや、いや、じきに慣れる。・・・ははっ、これで、六道に通じる力を持つことが叶った」

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11 飛 ぶ

2015-02-11 01:00:53 | 日記




 あっ、あの日の鳥だ !! ある日、私は悠々と飛びながら私に近づいてきた大鳥を見つけました。お父さん、お父さん。私はそう呼びかけました。おや、私に何の御用で。鳥は電線に止まりました。なぜ呼んだのかと言いますと、さやかのような姿をした鳥が空を飛んでいるのを見つけたからです。

 「さやかに鳥の霊が・・・」

 「なんだそんなことですか。さやかは気ままに空を飛べます。霊とかそういうものではなく、思いの通りにすることができるようになりました。それだけのことです」

 鳥はそう言って飛び去りました。そのやり取りを観ていた地蔵さんが私に言いました。

 「如意。如意だよ。電信柱さん」

 「思いの通り、ということですか」

 「そうだ。何でもできるようにさやかはなった。ただ、母親はそれに気づいていない」

 「それから・・・」

 「えっ、それから、なんでしょう」

 「さやかにお前の娘の霊が乗り移ったかも知れない」

 「ど、どういうことですか」

 「女優修行の最中、病で死んだお前の娘が、自由に空という舞台を飛び回っているかも知れない」

 「娘がさやかに乗り移った・・・」

 「ははっ、同事ということじゃ。自他が同一化した。・・・さやかの潜在的な憧れとお前の娘のかつての憧れが同一化したということじゃ」

 「さやかは死んだ花りん」

 「ははっ、そうだった。花りんと言った。私はよく覚えている」


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10 戦 場

2015-02-07 23:23:59 | 日記


 おい、おい、電信柱さん、お前さんは何を悩んでいるんだね。えっ、悩んでいる ? そうだよ、あの娘のこと。・・・私は地蔵尊にそう問われて、却ってほっとしました。そうです。父が娘を殺してまで転生させること。そんなことは許せるのかということでした。


 「私は長い時間、ここでいろいろな出来事を見てきた。・・・そうだな、中でも戦のことが一番心に残っている」

 「イクサ ?」

 「そう、戦。何度も何度も見てきた。弓矢、刀の戦から鉄砲の戦。親子、兄弟の戦も見てきた。だから、ここには死者の霊が夥しいほどさ迷っている。転生して動物や植物になったものもいる。人間になったものもいる」

 「空気の気配ですね」

 「旨いことを言うね、貴方は」

 「いや、正直、何かが蠢いている、その気配が」

 「そうだ。その通り。耳を澄ますと、うめき声、すすり泣きの声もする」

 「だから、あの父親の鳥もその中の一つに過ぎない。父は、何も娘の首を絞めて殺したのではない。」

 「霊の転換ですね」

 「そうだ。瞬時に鳥に変える。・・・見事な業だった。父は相当位の高い霊だと思われる。修行を積んだ証だ。何より娘への愛情が深い」

 「医学の限界を見抜いていたという・・・」

 「そうだ。万能ではない。死ぬべきものはいずれ死ぬ」

 「あの娘、私は・・・、私の娘のような・・・、いや、何でもありません」

 「隠さなくてもいい。私は大体が分かっている積もりだ」

 「ああ、御免なさい。・・・あの娘、父は、他の霊を保有している可能性があると言ってましたが・・・」

 「元のままの霊を獲得することは難しい。こんなに夥しい霊に満ち満ちているからな」

 「他の娘の霊も入り込むことがあるということですね」

 「そうだ。ほとんどは元の霊だが、再転生させる隙に、他の霊が入り込む、・・・と言っても微々たるものだと思うが・・・」

 「母親は気づくのでは・・・」

 「それも霊性の高さによる。気づくこともあるし、ないかも知れない」

 「お地蔵様、またこで戦が始まることもあるでしょうか ?」

 「あるかも知れない。どうしても防ぎたい。しかし、私一人では力が足りぬ」

 「六地蔵様であれば・・・」

 「六道輪廻。六道のどこへでも出かけられる」

 「ぜひ、そのお姿に・・・」

 「そうじゃ、そうありたい。共に修行に務めよう」

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