私は、樹として生きていく、娘と。そういう覚悟が出来つつありました。うきうきするような毎日でした。私は樹木。あらゆる現世の生き物の中で、環境に調和した最高のレベルを保っている。そういう自負もありました。しかし、・・・。
「そこの電信柱さん。懐かしいねえ。私を覚えておいでかい ?」
声のする方をじっと注視すると、長い髪の美しい女性がいました。
「誰ですか ?」
「私を忘れるなんて・・・。」
「ほんとに、いや、ほんとに、思い出せません」
「貴方にとっても私にとっても一番近い関係でしたのに・・・」
私は、そう言われて、なんだか心の奥がむずむずしてきました。なんと口許が愛らしいことか。
「ああ、思い出しました。学生時代の麗奈さんでは・・・」
そう言った途端、また、全身に痛みが走りました。よくよく見つめていると、その女の背後に男の姿が現れました。しばらくすると、もう一人の男の姿も現れました。二人は、その女の背後に立ち、二人ともその女の肩に手を置きました。すると、嬉しそうにその女は微笑みました。私は痛くて痛くて息苦しくなりました。
「あなたたちは、ほんとに誰ですか ?」
「はははっ、私たちを思い出せないなんて・・・」
「ほんとに誰ですか ? 私をこれ以上苦しめないでください」
その時でした。花りんの樹から細い声が伝わってきました。オトウサン、アナタハ、マタ、タメサレテイマス。ど、どいうことだ。オンナニヨワイアナタハ、ドンナヒトデモ、フラツイテシマイマス。ソノココロガ、マタ、デテキマシタ。ホラ、ヨクミテクダサイ。ソノオンナノヒトハ、アナタノオカアサンノ、ワカイコロノスガタデス。
「えっ、母 !! ・・・じゃ、後ろの男たちは・・・」
ゴゾンジダトオモイマスガ、アナタノオカアサンハ、サイコンサレマシタ。・・・デスカラ、ミギカワノオトコガ、リコンシタヒト、ヒダリガワノヒトガ、アナタノオトウサンデス。ワカリマシタカ。
「分かった。・・・でも、どうしてこんなときに、こんなところへ・・・」
「アナタガ、リッパナキニナルタメノシレン、ヨウスルニ、ホンセイヲ、タメサレタノデス。・・・イヤ、シュクフクスルタメニ、サンニンハ、デテイラッシャッタカモシレマセン」
そう言い終わると、花りんの樹から七色の光が出てきて、その三人を柔らかく取り囲みました。すると、私の痛みは自然に消えていきました。それと同時にその三人の姿が透明になって、そして消えていきました。元の闇にもどりました。
東日本大震災被災地の若者支援←クリック募金にご協力ください。