続・切腹ごっこ

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衆道者(もの)奇談 稚児の腹切り 二

2005-12-06 | ◆小説・kiku様
死ぬる覚悟

あの人が一人見張りに立ったのを確かめて近付いた。これまでも心にかかってはいたが、流れ稚児の身では声もかけられなかった。
膝元にひざまずいて、袴を脱がせふんどしを外した。むせるような異臭がした。萎えていた竿とふぐり袋を手で包み、指を内股に這わせ尻に這わした。引き締まった臀部を撫でて菊座を揉むと、すぐに竿は屹立し鼻先まで届いた。内襞(ひだ)が指先を締め付ける。この人は男と契ったことがあると指先が確信した。雁首を口に含み舌で恥垢を拭う。口いっぱいに男の味と匂いが広がり、全身の血が沸騰して頭が眩んだ。もう何も考えられなかった。突き立てた指が菊座を攻めながら、夢中で口を使った。頭を下腹に抱き締められた。引き締まった肉が震えて口の中で男根が膨れあがった。その時、男の命を注がれる予感がした。自分も昇り詰めようとしているのがわかった。巨大な潮が押し寄せてくる。男が全身を痙攣させて精を放った。押し寄せる巨大な波に飲み込まれて、自分も精を放っていた。このようなことはないことだった。

二人は放った余韻に浸りながら月を見上げていた。
「そなたに礼をせねばならぬ。」
源吾が銭を出そうと懐に手を入れる。
「明日にも死のうかという時に、気持ちを銭で購(あがな)われるお心算か。お止しなさいませ。」
笑いながら若者が止めた。
「覚悟はついたつもりでも、死ぬのは怖うございます。」
源吾は手を握ってやった。股間に手を伸ばすと濡れていた。
「そなたも果てたか。」
色稚児は、果てさせて果てぬものと聞いていた。抱き上げて草むらに寝かせた。恥かしそうにするのを目でなだめて、源吾はひざまずいて裾をはねた。夜目にも白い肌が浮き上がる。下布がべっとりと濡れていた。
「共に果ててくれたのか。嬉しい事じゃ。」
股間は精水と若者の汗の匂いがしていた。懐から手ぬぐいを出し拭ってやる。濃い繁みの中心に萎えた男の印がある。誘われるように口に含んだ。
「そのような・・・、そのようなもったいない。」
舌で拭うと果てたばかりの男根が少し硬度を増した。身をよじって逃げようとするのを抑えられ、若者は観念したように力を抜いた。
「先ほどの礼じゃ。そなたのように巧みではないが、わしとて男同士の交わりを知らぬではない。」
なされるままに目をつぶって、若者の口から喘ぎが漏れた。口の中の肉塊が源吾に懐かしい感触を思い出させた。人肌が恋しかったのかもしれぬ。死ぬる予感と放った余韻がそうさせたのかもしれなかった。

月を見上げて、二人は並んで腰を下ろした。
「恥ずかしい姿をお目にかけ申しました。」
下を向いたまま、消え入りそうな声で礼を言う。
「そなたのような色者は、すでに落ちたと思うていたが。」
「数日、急な病に臥せっていて逃げ遅れました。惜しい命でもございませぬ。」
「わしもこのように因果な稼業、これまで随分人も殺した。すだれにされても文句は言えぬが、あまりに惨い死に方はしとうない。」
「私とて、根切りとなれば覚悟もいたしましょうが、嬲(なぶ)り殺しは嫌でございます。」
「助けてやりたいが逃れる道はすでに閉ざされておる。明日明後日(あさって)にも敵がなだれ込み、わしもそなたもなで斬りになろう。先ほどまでは惜しい命でもなかったが、何故かわしも死ぬのが怖くなった。」
各々が無惨にも殺される姿を思い描いて、二人は目を合わさなかった。しばらくの沈黙の後で源吾がポツリと言った。
「いっそ、二人だけで死ぬるか。」
若者が顔を上げて源吾を見る。
「どうせ助からぬ命なら・・・。」
逞しい胸に華奢ともみえる身体がしがみつく。月はもう山の端に落ちようとしていた。