台風一過の散歩をしようと老年三人組が合流することになった。JR小机駅の近くに聳えるサッカーでお馴染の日産スタジアムがちょうどフリマの開催日になっている。濱野氏はすぐ近くの鶴見川の対岸から徒歩でやってくる。佐々木氏は横浜駅から横浜線、私も座間から町田乗り換えの横浜線というアクセスのお手軽散歩だ。スタジアムを見上げると夏空が一面に広がっている。こういう時候に自然は上手い配色を施すもので槿(むくげ)や梔子(くちなし)等の華美な花弁が背景の夏空にコントラストがきまるように仕組んであるのだと思う。
フリマ会場はスタジアムの庇によって日陰のできる場所以外はとてつもない炎熱エリアになっている。太陽が射してくる場所は34℃くらいありそうで、これでもかこれでもかというくらいの汗が噴き出してくる。これに負けじと一見元気な老年三人組もおのおのの関心品を物色して歩く。テナントはバッタ屋系統の新品特価品が主流で魅力というものがまるで感じられない。混じっている個人の出品に逗子の神社にて掘り出したようなちいさな良品を見つけだそうとそれなりに注意力を研ぎ澄まして歩く。
会社を定年してからカジュアルファッションや携行品づいている佐々木さんは、鋲打ちした濃いテイストのキャンバス地と本革のミックスしたバッグだとか、20代の斜め被りしたキャップを被ったヒップホップミュージック好きなあんちゃん達にも愛好されているラフな「アバクロービー」のフード付きパーカー等やTシャツ等も買って喜々としている。
自分も珍しく都会派にいちゃんのコーナーで見つけた夏ものの「ウールリッチ」製縞柄の木綿シャツを500円で買う。肌触りがザラザラした木綿地がとても気持よい。色調はジョルジュ・ブラックめいたコンポジションが魅力だ。
濱野氏は木綿地のベージュ色したハンチング等を買って品よく歩いている。自分ももう各種な器などは売るほどあるから不要なのにちょっとチャームポイントのあるものを見るとすぐ買ってしまう悪癖を自重しながら物色していたら、沖縄三彩の可愛い蓋付き小壺を見つける。消費社会が過剰になった時代にけっこう贅沢を味わった匂いがする40代の素人女性出品者のものだ。値段がついてないから尋ねると拍子抜けの100円という答えだ。500円なら買うかという判断だっただけに先に買ったシャツの間に裸のままつっこんでもらう。高台の胎土は壺屋付近の重油で焼いたようなテリがある。しかし三彩の点描とその隙間はなんとも愛らしい味わいがある。これは今年漬け込んだ葉山の丘で収穫した梅干し壺にすることにしよう。
炎熱を逃れて遅い昼飯をとることで新横浜駅方向へとおしゃべりでまぎらわせながら歩く。新横浜からセンター南は近いということで横浜・麦田「奇珍」伝承中華「海亀食堂」を訪れる。昼の混雑がひいた時間帯で、それぞれ中華麺だけの客にもかかわらず店主は歓迎の意を揚げワンタンの甘酢たれソースで先に供してくれる。自分は港湾労働者の食事として発生の源がある昔から好きな野菜餡かけのたっぷり乗っている「サンマー麺」、濱野氏は「チャーシュー麺」佐々木氏は「ワンタン麺」をそれぞれ注文、クーラーの冷気も寄せ付けない汗が噴き出す昼飯を快適に堪能する。
それにしても「海亀食堂」の麺、各種具、スープの総合力の冴えわたっていることには感心する。いつもながらの出口まで送ってくる店主との立ち話がいい。共通の知人である横浜・元町付近で長く観念的バイクショップをやっていた「ケンタウロス」の飯田繁男氏などのことも話題に上る。「ケンタウロス」は来年50周年の節目を迎えるらしい。こちらはマルクス、あちらはプラトンだった等という半世紀前の挿話を「ケンタウロス」の旗持ちをしていたという「海亀」の主人に話をしたら苦笑していた。食事後はセンター南の有隣堂書店の古書祭りを冷やかしてから市営メトロの乗客となって老年三人組の歩数計は、それぞれ一万歩をカウントすることになった。
は倉橋由美子の「暗い旅」(昭和36年東都書房初版)でした。反町の古書会館と藤沢有隣堂の古書
祭りにも時々行っております。