2年前にバイクで北海道へ行った。
ある雑誌に「北19号」という
北海道のまっすぐな道の写真が載っていた。
その風景を自分の目で見たくて、
27歳にしてバイクの免許を取り、
CB400SF V-TECを買い北海道を駆け抜けた。
北海道の山の中。峠を見つけて走りに行った。
緩やかなカーブを描き、道は山を続いていく。
ふもとのドライブインでしばし休憩する。
再び走り出した前方に革の上下のアメリカン2台。
パン・パン・パン・・・
と単気筒特有の音が前方に響いている。
「抜こう」
と思った。既にスピードはかなり出ている。
「まだまだ行けるはずだ」
ギアをひとつ落とす。
アクセルを全開にする。
タコメーターの針が跳ね上がり、
V-TECが起動する。
緩やかな坂道であるせいか、
強烈な加速はなかった。
ゆっくりとしかし確実にスピードが上がってゆく
ヘルメットが後ろに置いていかれそうになる。
登板車線でアメリカン横に並ぶ。
パン・パン・パパパパッ・・・
音が大きくなる。
体を前傾にしてバイクにしがみつく
顔を上げるとそのまま飛ばされそうだ。
ちらとメータを見る。タコはレッドだ。
「ギアだ」
シフトアップする。
さらにスピードは上がり、
前方視界は点になる。
ミラーを見る余裕もない。
体はバイクと一体となり、
周りの風とも一体になる。
ふと気付くと
単気筒エンジンの音が小さくなってゆく。
前にも後ろにも車は無い。
ただ、道とスピードがあった。
既にスピードメーターは限界に近い。
体中に風が当たり、感覚がなくなってゆく。
何かあれば俺は死ぬだろう。
ハンドルを少しでも切れば、
小石でも踏めば、
前ブレーキをかければ
きっと死ぬのだろうな。
これほどまでに
「死」というものが自分を取り巻いている状況が
あっただろうか。
車で雪道にスピンをしたとき?
車でカーブを曲がれなさそうだったとき?
どれとも違う。
「生」と「死」が同居する
濃厚な時空。それがそこにはあった
もう、峠を登りきっていた。
「戻ろう」
そう思った。
アクセルを緩め峠の頂上の
ドライブインへと入って行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あれからいろいろありバイクは手放してしまったが、
もし死にたくなったら、
もう一度あの風の中に戻りたいと思う。
きわめてシンプルな世界。
「生」と「死」を見つめられる、あの風の中へ。