素振りブログ。

一般でスピーチできる話の素振りのはずなのに、無理な話がほとんどのブログ。

平山センセの作品を読んだ。

2020年01月03日 15時25分19秒 | 日記
ブラックな物語が読みたくて。
ネットニュースで取り上げられていたので、買って読んだんですが。
平山夢明「他人事」(集英社文庫)

表題作「他人事」を筆頭に、計14本の短編集ですわ。
1本1本は短いので、読むのはわりと簡単。
気づいたら一冊全部読んでる。
そんな感じで読めます。

お気に入りは

「定年忌」「ダーウィンとべとなむの西瓜」

この2本ですかね。

「定年忌」は、藤子不二雄先生の「定年退食」をより酷くした物語で。
定年退食は高齢者からまともな食事、医療サービスを取り上げ、老人はさっさと寿命を迎えてくださいよという社会の物語でしたが。
定年忌は高齢者から人権を取り上げる話。

まぁ、平山さんらしい物語だなーと思いますが。
この先生、えげつないの好きだから。(ダイナーなんか見ると良くわかりますよね)

定年になって労働者じゃなくなった瞬間、略奪に遭おうが暴行に遭おうが、殺されようが国は一切関知しない。
そういう社会になった日本が舞台のお話。
笑えるのはそういう高齢者が犯罪を犯し、刑務所に入れられたとしても。
刑務所内の食事は有料。
無一文の老人は、その場合食事代が払えないので飢え死にするしかない。
なので、所謂「無敵の人」化して、自分たちを切り捨てた社会に復讐する。それすら出来ない社会。
一方的に奪われ、殺されるだけ。

しかし、そういうえげつなさで読者にブラックな笑いを届ける物語かと思わせて。
根底にあるのは「俺もされた、とか、これぐらい必要悪なんだよ、と、立場の弱い者に辛くあたれば、一線を退いて弱者になったとき、悲惨な思いをするのはアンタらなんだが」って一般常識なのがね。
リアルな世界では別に定年したからと、殴り殺されたり財産を奪われたりはせんけど。
現役のとき態度が悪かったリーマンは、定年で会社を辞めた後、年賀状が1通も来ないような事態。
これはフツーにあるよね。
そんなので、アンタらは本当にそれでいいの?
定年忌の主人公みたいな悲惨な最期ではないかもしれんけど、それはそれでなかなかキツイと思うよ?


「ダーウィンとべとなむの西瓜」は、裁判で死刑判決が出た場合に、死刑台を搭載したワゴン車が受刑者の自宅に訪れて、そこで死刑を執行する制度が確立した世界が舞台の物語。
主人公は自分のヘマの埋め合わせで、その死刑巡回車の運転手兼死刑執行役を押し付けられた哀れな男。
本人、最初は自分が押し付けられた仕事がそんなえげつない仕事であることを知らず、物語の後半で自分が押し付けられた仕事が何であるのかを知るのですが。
拒否できない。
だって、拒否すれば自分は全てを失うから。

彼が押し付けられた仕事は、金を盗む際に老婆を驚かせて運悪くショック死させてしまった子供の処刑。
その子のやったことは良くはないが、死んで償う程ではない。
それでも死刑判決が下ったのは、その子供が社会的地位が最底辺の人間だったから。
平等では無い。(その証拠に、彼の同僚は「あの子が社会的最底辺じゃなきゃ死刑にはならなかっただろう」と言っている)正しいわけがない。
そんなことは分かっている。だけど、自分には自分の生活がある。
それは守んなきゃいけないから、やるしかない。

世の中、あるよな。
こんなの絶対に間違ってる!って思ったとしても。
それに声をあげれば、潰されるのはこっちだからと。
声をあげられない、って事。

この物語の主人公は、子供を処刑してしまったことを一生理屈をつけて正当化しながら、自分を誤魔化して生きていく。
そんな暗い未来を予感しながら物語を閉じるのですが、この絶望感がなんとも。

自分はそういう選べない選択をしなきゃならん立場にはなりたくないなー。