「着信ないのにスマホが震える」人は「幻想振動症候群」かも…錯覚が映す現代の依存症(読売新聞オンライン) - Yahoo!ニュース
東京都の不動産販売業の男性(59)は、こんな錯覚に悩まされている。浅川クリニック(東京都江東区)を受診すると、院長で精神科医の浅川雅晴さんに「幻想振動症候群(ファントム・バイブレーション・シンドローム)」と言われた。「スマホにすぐに反応しなければという過剰な緊張状態が原因で起きる症状。身に覚えがある人も多いはず」と浅川さんは指摘する。
男性が体調に異変を感じたのは、数年前に会社の同僚数人とLINEを始めたのがきっかけだ。メンバーが徐々に増え約140人になると、勤務時間に関係なく四六時中メッセージが投稿された。
仕事の連絡もあるし、社内で孤立したくないから無視はできない。トークルームに流れる投稿を目で追い必死に返信。気が付くと3時間たっていることもあった。「防水の袋にスマホを入れてお風呂にも持ち込んだ。片時も離せない。体の一部のようでした」
総務省の通信利用動向調査によると、スマホの所有率は2013年は約4割だったが19年は約7割に増加した。単なる通話手段ではなく、様々なことができる便利な多機能携帯端末に。同省の別の調査で「スマホとの接し方」を聞いたところ、約73%が「特にすることがない時、とりあえずスマホを開く」と回答した。
朝起きたらカーテンを開ける前にスマホをチェックし、夜寝る時は枕元に。電車の中はもちろん、エスカレーターに乗った瞬間、スマホを取り出す。レストランで食卓を囲む家族が全く会話をせず、それぞれのスマホを見ながら食事をしている光景も珍しくない。
神奈川県の高校2年の男子生徒(16)は、中1の時にスマホを買ってもらってから無料でダウンロードしたゲームがやめられない。顔も知らないゲーム仲間とチャット機能で会話しながら進めていくのが楽しくて、1日12時間以上も寝食を忘れて没頭することも。昼夜逆転して学校に通うのが面倒になり、不登校が続いている。「学校に行っても友達はいない。スマホゲームの方が面白い」
スマホは最強の依存物の一つ
スマホ依存の予防啓発を行う民間団体「エンジェルズアイズ」代表の遠藤美季さんによると、学業や仕事の不振、人間関係のこじれなど、何かにつまずいた時、不安やつらさから逃れるためにゲームやSNSにはまり、スマホに依存するケースが目立つという。「子どもから高齢者までスマホは生活に欠かせない存在になった。コロナ禍で様々な活動が自粛され、依存のリスクがさらに高まっている」と強調する。
なぜ、スマホを手放せなくなるのか。旭山病院(札幌市)精神科医長の中山秀紀さんによると、「楽しい」「ワクワクする」といった「快楽」をもたらすうえ、「飽きにくい」という性質が依存物の条件だという。
中山さんは、スマホで使用するインターネットというメディアの依存的性質に注目する。SNSにゲーム、動画、様々なアプリ。スマホがあれば手軽にいつでもどこでも、そして制限なく楽しむことができる。
暮らしを便利に快適にしてくれる道具だが、つき合い方次第では、日常生活に大きな支障を来す危険もはらんでいる。中山さんは警鐘を込めて断言する。
「スマホは最強の依存物の一つだ」
使用時間を過小評価
依存症は「否認の病」と言われる。自らの依存状態に気づかなかったり、いつでもやめられると依存を認めなかったりすることも多いからだ。スマホの依存でも同様な傾向が見られるという。
PR会社「PR TIMES」(東京)が2月、10~60代の男女1300人に行った調査によると、スマホの使用時間について、8割以上が過小評価していた。
本人が意識している使用時間の平均は4時間9分だったが、実際の使用時間の平均は6時間58分と、約3時間の差があった。スマホ依存を防ぐためには、まず自分の使用状況をきちんと把握することが大切だ。