神足勝記を追って

「御料地の地籍を確定した神足勝記」を起点として「戦前の天皇・皇室・宮内省の財政について」のあれこれをとりあげる

No.281 大山郁夫

2024-09-03 00:08:10 | 時評
(1)ある医科大学で医学を勉強して、卒業後に少なくともある期間は決められた場所で医師として従事するという奨学金制度があるのを聞いたことがあるでしょう。
 これは、経済的困難を抱える学生の方からすれば、卒業後に一定期間の拘束を受けるとはいえ、希望する医師へ道が開けるわけですから、都合よい奨学金制度です。
 一方、行政や自治体からすれば、日本国憲法の健康で文化的生活を保障する精神からいっても、社会的に必要な医療分野への人員確保は当然の政策です。大いに検討すべき政策です。

(2)では、これを防衛省がやったらどうなるでしょうか。
 日本は、あの戦争を引き起こして世界や近隣諸国に被害を及ぼしました。ですから、再び軍事産業や軍事はやらないことを誓ってポツダム宣言を受諾し、日本国憲法で第9条を決め、財政法でその裏付けとなる財政規律の順守を決めたのです。
 ところが、自衛隊という軍隊を造り、同時に、その幹部養成校として防衛大学校を造りました。平和憲法のもとで軍隊の幹部を養成する大学というのは明らかに異常です。
 そのうえ、医師と違って、自衛隊員にもましてや幹部になりたいわけでもない、ただ大学卒業資格を得るためだけの人もいます。実際、約60年前の私等の進学説明会でも、入学志願者確保のため、卒業して任官しない途もあることを説明していました。
 これは、防衛大は明らかに「幹部軍人を確保のための徴兵の一環」なんですね。 

(3)でも、問題は、幹部だけでなく、現場の一兵卒(士)と直接の指揮官(曹)です。
 前にガルブレイスが、社会はそれを支える底辺層がないと成り立たないといっている、ということを紹介しましたが、軍隊がまさにそうです。今の、ウクライナ戦争でも、幹部の指揮官はテレビに出て来るロシア人ですが、戦闘の最前線は、傭兵だったり、犯罪者だったり、ほとんど訓練されていない若年層だということがわかってきています。
 ちょっと前までは、災害が起こると自衛隊員が派遣された場面がテレビで報道され、「あってよかった自衛隊」という宣伝文句も聴きましたが、小泉内閣以降、実際に戦闘現場近くに派遣され危険が現実のものなりました。さらに、安倍内閣の戦争法以降、自衛隊も強化されて、岸田内閣で予算を急増させるなど「戦争国家」づくりが急激に進み、任務がきつくなりました。キケン・キツイの2Kです。そのために自衛隊の応募者が少なくなってきて、23年度は採用予定1万6000人の30%程度にとどまっているそうです。

(4)そうなると、現場の兵隊確保のための徴兵となりますが、すでにその話が始まっています。もちろん、いきなり全員を対象にはできません。ではどうするかというと、奨学金制度です。防衛大学生の一般学生・生徒版です。
 ちょっと前までは、国の教育費≒防衛費でしたが、岸田内閣はとうとう防衛費を教育費の2倍にまで増額しました。こんなことをしないで、奨学金や研究費のワクや増額をすれば、国内的にも国際的にも日本の平和的貢献をできる道がいくらもあるはずなのに、その道をふさいでおいて、軍事強化の不足人材を「奨学金を使って経済的に徴兵」して補おうとする。なんともヒドイ置き土産です。
 こんどの自民党の総裁候補者はどうかというと、全員が憲法改正を表明しています。つまり、合法的にこの方向でやることを表明しているわけです。
 日本は、ないはずの軍隊が世界有数の軍隊にまでなっている国です。ないはずの戦争も世界有数の戦争に・・・おっとっと。いや、私はないことを信じていますよ。でもね、アメリカが着いているんですよ。日本はアメリカベッタリだから、いやでもやらされる・・・ハメに。

    
       お庭でなかよし

【コレクション 75】
 きょうは、『大山郁夫著作集』です。
 前に『吉野作造著作集』を紹介しましたが、大山も大正・昭和期に政治運動・平和運動のリーダーとして活躍しました。
 私が知っていた大山像は、下の2点目に揚げた戦後の大山像ですが、このパンフの若き日の大山像はたいへん魅力的です。
    
      1912年(大正元)年 ミュンヘン留学当時の大山(パンフ)

 パンフは、B5判、6㌻です。B5判大3枚分の横長の用紙を三つ折りしてできています。
 1㌻ 上掲
 2~4㌻ 正田健一郎 編者のことば
      推薦文 中村 哲 大衆に直接訴える大山
          杉原四郎 大正期の思想的全体像の把握のために
      大山郁夫略年譜
      全7巻の構成と内容
 5㌻ *下に掲載 少し大きめにしましたから、読んでみてください。 
 なお、写真の下には、「1947年 亡命先のアメリカから帰国して早稲田大学に復帰、学生たちから熱烈な歓迎を受ける」とあります。 
 6㌻ 実物大装丁見本 
    刊行案内 A5判 平均480㌻ 定価4000~4500円 1987年10月より刊行

    

 本ブログNo.235で紹介した大塚金之助の『歌集 人民』(新評論 1979年5月 269~271㌻)には、「大山郁夫先生」と題して大山の帰国を詠んだ次の3編が載っています(行替えを改めました)。
 16年ぶりの 亡命者の 手をにぎる、 大山さんの手は 大きくてあたたかい。
 「牢獄の なかでも戦って きました」― と、 ひとりの労働者も 先生を迎える。
 国際反動勢力と たたかう気力は まだあるという 大山さんの身ぶるいに 私も手をにぎりしめる。
 
 長くなりました。きょうはここで。

  
    芝刈りや 陽ははや西に傾きぬ

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