神足勝記を追って

「御料地の地籍を確定した神足勝記」を起点として「戦前の天皇・皇室・宮内省の財政について」のあれこれをとりあげる

酒巻芳男『皇室制度講話』つづき 4

2023-12-22 17:36:24 | 皇室会計
 つづきです。
 これまで、酒巻が『概論1』『概論2』を作っていたこと、先行研究としてあげたうちの『皇室会計法規大意』(高木三郎)と『皇室会計法規要義』(池田秀吉)の2点を紹介しました。
 十分に説明ができませんでしたが、私は、酒巻が高木『大意』と池田『要義』の「会計」を読み、池田の「機関」取り入れたのだろうと見て今も読んでいます。  
 池田『皇室会計法規要義』本文1ページ

 そこで、最後に酒巻が何を言っているかだけとりあげます。
 酒巻は『概論1』⇒『概論2』で追加した「第9講 皇室の財産制度」の様子を『講話』で見てみましょう。注目すべきは、次の3項です。4項以下は略。

 第1 総説  第2 天皇の財産上の地位  第3 御料の法律関係
 
 まず、第1では、「天皇を直接の主体と看」て「財産上の権利に基く責務を直接に天皇に帰」することは「国体観念」が「許さぬところ」といいます。

 その理由として、第2で、天皇が財産上の義務を負わないというのは「不可侵性の帰結である」といい、天皇の「財産上の地位の探求は専ら権利の方面からなさるべきものである」といいます。

 ではどうするかというと、天皇が財産上の主体であることは「論なき所」だが、「天皇を財産の権利主体とするときは、其の行為に基き各種の義務を生じ」るから、そこで「天皇財産を一括して財団と為し、この財団を権利義務の主体と為し、財団の意思は恒久的に皇室令、宮内省令等の法に依り組織せしめ」、宮内大臣が、「宮内大臣の輔弼の責の下に・・・天皇の旨を承け」、財団の機関として財団の法律行為の当事者となる」のだといいます。
 
 つまり、第3で、財産(=御料)を財団(=法人)とし、皇室令などで規律を定めて「天皇之を統括し」、「意思代表の機関として宮内大臣以下の機関」がこれを担当する。これは「其の本質として法人と異なる所なし」なので、そうすると、財産だけでなく、金銭の収支などはすべて権利義務が絡みますから、結局、皇室財政全般が財団の行為となることになり、それを宮内大臣が機関として取り仕切るというのです。
 
 そのうえで、その財産運営に基づく経済=財政の仕組みの説明を「第10講 皇室経済制度」で次のように説明しています。
 第1 総説 第2 皇室経済の財源 第3 皇室の御費用 第4 御料財団の組織と皇室会計の系統 第5 金銭的財産の保管 第6 輸入及支出の原因
第7 予算及決算 第8 収入及支出の手続 第9 皇室経済の監督
 
 まず、第1で「皇室の経済制度とは皇室諸般の御費用を経理する制度を云ふ」といい、それは「結局御料財団に属する財産の運用、収支に関することとなる」といって、皇室財政(財団の財政)の説明に入っていくわけです。
 上の目次では、第2が収入論、第3が経費論、第7・8・9が予算決算論、第4・5・6が会計論となりますが、ここはもう略します。。

 酒巻は、天皇の不可侵性に絡むという観点から、財産を天皇から切り離して財団としてとらえ、それを機関としての宮内大臣が当事者として担当することで皇室財産の運営ができると説明しようとしました。
 酒巻は、皇室財政を歴史的に説明するのでなく、出来上がりの方から説明(解釈)しようとしたわけですから、科学的とは言えませんが、当時の宮内省の高官の思考法を知る上では重要で、「機関」が「機関説」とどう関係するのかをはじめ(今回は会計・財政の説明は略しましたが)、もっとやられるべきこととして、文献紹介だけでもと考えて取り上げました。
 なお、目下、統計書の解題として検討しているところです。
 ろうばい

 
 
 


 
 
 

 

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酒巻芳男『皇室制度講話』つづき 3

2023-12-21 19:52:55 | 皇室会計
 つづきです。今日は池田秀吉『皇室会計法規要義』を紹介します。
 この本には「まえがき」も「あとがき」もないので、刊行の経緯は不明ですが、奥付に、帝室林野局、非売品、昭和7年4月発行、同9年3月再発行とあります。ほかは手掛かりなしですが、帝室林野局の職員講習用に作成されたものと思われます。大きさはA5判です。(著者の池田秀吉は、明治26年9月松山市生まれ、大正9年7月京都帝大法学部政治学科卒業、農商務省属・事務官のち宮内省入省)。
 
 私はこれを古書店で入手しました。調べたところ、東京国立博物館に所蔵が確認されましたが、国会図書館にも宮内公文書館にも所蔵されていないようです。

 ここで、池田『要義』と高木『大意』を比較してみましょう。
   池田『要義』          高木『大意』
 第1編 緒 論         
 第2編 総 説         第1章 総 説
 第3編 予 算         第2章 予 算
 第4編 収入支出の基因(契約) 第3章 現 計
 第5編 収入及支出       第4章 決 算
 第6編 決 算         第5章 契 約

 配列を比較しただけですが、池田『要義』は、高木『大意』を第5章・第3章・第4章と変えた形となっていることがわかります。では、内訳はどうでしょうか。ここでは、スペースの関係で「総説」だけを同様に比較してみます。対比しやすいように少しずらしました。
   池田『要義』          高木『大意』
 第2編 総 説         第2章 総 説
                  第1節 会計の意義 
                  第2節 皇室会計の基礎法規
  第1章 皇室会計の種別     第3節 皇室会計の種別 
  第2章 皇室会計の機関     第4節 皇室会計上の機関
  第3章 会計年度        第5節 皇室会計上の年度
   第1節 会計年度の独立    第1款 会計年度の意義及期間
   第2節 年度所属区分     第2款 整理機関
    第1 歳入の年度所属    第3款 年度所属
    第2 歳出の年度        
   第3節 整理期間        
     1 出納閉鎖期
     2 帳簿締切期

 これを見ると、似たような項目建てをしていることがわかります。しかし、じつは両者の違いとして興味深いのは「機関」についてです。高木は「第4節 皇室会計上の機関」これより下の項目建てはしていませんが、池田は下のようにさらに小項目に分類しています。   
 第2章 皇室会計の機関
  第1 天皇  第2 宮内大臣  第3 主幹部局長官  第4 内蔵頭         
  第5 分任官  第6 主幹部局長官の代理官  第7 配付官  
  第8 契約担任官吏  第9 出納官吏  第10 入札担任管理 
  第11 予算委員会  第12 帝室経済会議  
  第13 帝室会計審査局

 なお、高木は目次には項目建てはしていませんが、本文中で「第1 主幹部局長官」、「第2 予算委員会」、「第3 帝室経済会議」、「第4 帝室会計審査局」の項目を建てて書いています。しかし、「第1 天皇」と「第2 宮内大臣」に相当するものを書いていないようです。
 では、高木が項目建てせず、池田が「第1 天皇」と「第2 宮内大臣」も入れて項目建てした理由は何でしょうか?
 これは、まだ十分な確証がないのですが、「第2 宮内大臣」はともかく、「第1 天皇」が機関のトップ(頂点)に挙げられていますから、「勅裁=天皇の監督機能が強まった」結果か、「機関説」が強まった結果か、のいずれかと思われますが、目下は「機関説」の強化が有力と見ています。
 今日はここまでとします。


 
  
 

 
 
 


 





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酒巻芳男『皇室制度講話』つづき  2

2023-12-20 23:19:49 | 皇室会計
  きのうの続きです。
 酒巻芳男『皇室制度講話』で先行研究の3番目に高木三郎『皇室会計法規大意』を挙げています。

 まず、高木がこの本を作った理由どういっているか見てみましょう。「序」に次のようにあります。
 「皇室経済の如き稍もすれば法規の拘束を脱して放漫に流るるもの、・・・法規を知らずして無視するは職に不忠なるもの、・・・宮内職員の会計法規に対する観念政府部内職員に比し著しき径庭あるを否む能はす」。それで「大正15年の頃」に「宮内職員学術講習」のために本書を作成した。

 本来なら、ここで冒頭部分の画像を紹介すべきですが、許可を得ていないのでできません。ご覧になりたい方は宮内公文書館(識別番号93920)で閲覧してください。
 
 いま細かい説明はできませんから、表面的になりますが、目次を挙げます。(数字は各項が始まるページ数です)
 第1章 総 説 1
  第1節 会計の意義 1
  第2節 皇室会計の基礎法規 2
  第3節 皇室会計の種別 4
  第4節 皇室会計上の機関 7
  第5節 皇室会計上の年度 22
   第1款 会計年度意義及期間 22
   第2款 整理期間 22
   第3款 年度所属 23
 第2章 予 算 29
  第1節 総 説 29
  第2節 予算の準備及提出 41
  第3節 予算の議定及成立 49
 第3章 現 計 55
  第1節 総 説 55
  第2節 収支の命令 57
   第1款 収納手続 57
   第2款 支出手続 60
   第3款 予備金支出の手続 75
  第3節 収支の執行 76
   第1款 預金銀行 76
   第2款 出納官吏 78
   第3款 収入及支払 98
 第4章 決 算 104
  第1節 総 説 104
  第2節 決算の調製 111
  第3節 会計監督 112
   第1款 監督機関 113
   第2款 審査の範囲及方法 115
 第5章 契 約 118
  第1節 総 説 118
  第2節 会計上の契約の種類 118
  第3節 契約の当事者 128
  第4節 契約の手続  135
  第5節 契約の帰結 145
  第6節 契約違反に対する制裁 145
 第6章 財本及資金 152
  第1節 財 本 152
  第2節 資 金 154
   附 録 皇室会計令 同施行規則 略。

 どうでしょうか。「皇室」という言葉がなければ、会計法の教科書らしい整然とした組み立てを感じますが、高木は「序」で述べていたように「会計法規」を講じたはずです。概観としてですが、どこに重点があるでしょうか。章ごとでは、第3章現計と第5章契約で、節ごとでは、7ページ「機関」、60ページ「支出手続」、78ページ「出納官吏」、138ページ「契約手続」などが目につきます。ここはそれぞれ多くのページを費やしています。
 
 内容説明なしで申し訳ありませんが、私が読んでの感想は、明日取り上げる池田秀吉『皇室会計法規要義』をその前に読んでいたせいか、わかりやすい、納得しながら読める、違和感は感じない、でした。
 しかし、高木が一生懸命に説明してくれているとはいえ、内容は一読するだけでもかなりしんどいです。初めて読む人は一度に10ページ読めたらいい方ではないでしょうか。なぜそうなるかというと、高木は逐条解釈的に説明しているからだと思われます。
 
 さて、私が知りたかったのは、酒巻が『皇室財政講話』を作るのに、高木本に何を見て、どこを利用したのかですが、高木が多くのページを割いているのは、以上のようなところです。そして、逐条的に、ある意味で学者的、学問的にきっちり説明しています。それが特徴です。これを除くとページ数から見ても特に変わったところがありません。
 そうすると、4番目の池田秀吉『皇室会計法規要義』はどうでしょうか。そこは明日にしましょう。
 
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酒巻芳男『皇室制度講話』つづき

2023-12-19 23:01:03 | 皇室会計
 前に、酒巻芳男が『皇室制度講話』(以下、講話)を出版する前に『皇室制度概論』(以下概論1、概論2)という講義案を2度作っていたことについて書きました。今日はその続きを少し書きます。ブログですから、細かいことは省いて、大きな点についてだけです。
 
 酒巻は、概論1⇒概論2⇒講話の順でどこを改定したのかというと(皆さんが概論1・概論2をご覧になれませんから、これを講話の目次でいうと)、概論1⇒概論2では、第7講までで約630ページあったものを180ページに圧縮し、編成替えをし、そして、第8講陵墓の制(42ページ分)と第9講皇室財産制度(39ページ分)を追加しました。

 次に、概論2⇒講話では、上記の第9講までに第10講皇室の経済制度(244~286ページ)と第11講皇室の裁判制度(287~299ページ)を加えました。

 言い直すと、講話をそういう目で見るならば、概論2⇒概論1と推測が可能ということになります。繰り返しますが、これは大筋です。

 以上の改訂について私が注目したのは第9講と第10講です。とくに酒巻がどんな先行研究によってこれをまとめたかです。
 ここでは、一般的な国の法令や宮内省の法令、帝室林野局の法規官制はよけて、次の4点があげられていました。
 1 『帝国国有財産総覧』(澤来太郎)
 2 「御料林事業小史」(和田国次郎、『御料林』昭和5~8年所収)
 3 「皇室会計法大意」(高木三郎、昭和4年)
 4 「皇室会計法規要義」(池田秀吉、昭和9年)
 このうち、1は、皇室財産として所有する有価証券が国策的なものに限られているということを言うくだりで言及されています。2は、収入としての御料林事業の沿革や内容を言うために依拠しています。したがってこの1と2は差し当たりは除けることにしましょう。問題は3と4です。
 結論から言いますと、この3も4も、酒巻の概論1や概論2と同様に宮内省の職員講習のために作り用いたものです。では、どんな内容(概要)でしょうか。ちょっとメンドウになりましたね。
 つづきは明日にしましょう。

  長岡で見た花

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