(1)アダム・スミスの『国富論』の最初のところが刊行されるのが1776年です。このころはマニュファクチュア〔工場制手工業=多くの人を一ヶ所に集めて、作業を手分けして生産する〕時代です。そして、この作業過程を人の手から機械に置き換える過程〔=産業革命〕が盛んに進むのが1800年の前後30年です。そうしてイギリスの資本主義が自分の足で立つようになります。その結果、新しい経済が始まりますが、いろいろな新しい問題を起こってきます。
(2)次を見てください。
【コレクション 77】
これは『イギリスの産業革命地図』のパンフです。
下の図は、イギリスの時間距離を示した図です。イギリスの地図の上に等高線が描かれています。これを使って、たとえば10時間でどこまで到達できるようになったかで変遷を追ってみましょう。
左上:1820年代(駅馬車) イギリスの国土の4分の1
上右:1845年(鉄道) 同 2分の1
下左:1910年8月(鉄道) 同 4分の3
こうして、下右では、イギリスの「国土の時間的縮小(1870年~1900年)」が、タテ3分の2✕ヨコ3分の2として9分の4に縮まったことを示しています。
このパンフの大きさはB5判、6㌻です。B5判3枚分の横長の用紙を、最初に右3分の1、次に左3分の1を谷折りしてできています。
全体は、
1㌻ 上掲 *刊行案内も掲載されています。
2㌻ 「序分より」 編者・訳者・執筆者一覧
3・4㌻ 内容見本
5㌻ 推薦文 小松芳喬 早稲田大学名誉教授 研究水準の向上に資するところ絶大
竹内幹敏 東京経済大学教授 全般の理解をふかめるにきわめて有益
吉岡昭彦 東北大学教授 刺激的な歴史地図・総合的な歴史地理事典
6㌻ 目次 *下に載せました。
パンフの説明は以上ですが、ちょっとこの目次に注意してみましょう。
産業革命が進んで、産業が発展して経済構造が変わった様子がうかがえます。その中で、ここでは産業を支える都市の労働者の状態についての次の4項に注目してみましょう。
21.救貧法と救済受給貧困者
22.都市化
24.労働者の抗議
25.労働者の組織化
経済が資本主義の方に進んでくるにしたがって、労働者の状態に様々な問題点が生み出され、それに対する労働者の反抗が出てきたことがわかります。これが、社会経済が福祉国家へと向かっていく背景だったわけです。
ところが、労働者・女性・子ども・高齢者の衣食住などの生活環境をより良いものにしていくには膨大な経費が必要です。
福祉は人手を多く必要としますから、雇用を増やすという点で失業対策としては有効な政策です。しかし、資本からすると、人を簡単には機械に置き換えられませんから、「効率が悪い」と見えます。そこで、大きな資本を持つ人や高額所得者は、「効率の良い福祉」とか、応益負担〔=政府に手厚い福祉を求めるなら、それに応じた負担をせよ〕を主張して、政府が社会政策をやってあまり金を使わないようにと、「小さな政府」という考え方をもちだしてきたわけです。負担能力があるのに負担を逃れたいという考え、これが新自由主義の人の理念です。
(3)そこで、私が注目していただきたいのは次のことです。
資本主義の基礎にある商品経済は、日本では、封建社会が確立して武士の都市生活者化〔=給与生活者化=サラリーマン化〕によっていっそう促進され、明治維新以降に資本主義経済を生み出しました。アダム・スミスたちの狙い通り、古い封建社会を批判して自由な経済として登場しました。もちろん、それが当時の進歩の方向でした。
ところが、自由を目指した資本〔資本主義経済〕は、自分がこの社会の主人公になって、こんどは自分が批判を受ける側になると、相変わらず自分の自由は主張するものの、資本の下で「雇われ・収入を得て・生活する勤労者」の自由や権利を率先して保護することはしなくなりました。それどころか、自分本位になり、保守化〔因循姑息な頭脳の持ち主化〕してしまいます。
旧権力に対する批判では舌鋒鋭かったのに、自分が権力者になると、尊大になったり、勝手放題をし、他者の批判には目を向けようとはせず、猫を被る・・・ようになります。
(4)この点、明治の日本も同様です。徳川幕府を倒した新政府が無法な側面を示し、これに対して民衆の怒りがわいてきます。その象徴的な人が田中です。
【コレクション 78】
これは『田中正造選集』です。
大きさはB5判、4㌻です。
全体は、
1㌻ 上掲
2㌻ *下に載せましたから略します。
3㌻ 推薦文 松沢弘陽 時をこえる思想の生きた力
4㌻ 本選集の特色 装丁見本
刊行案内 四六判 平均280㌻ 予価2500円 1989年5月 岩波書店
以上です。
田中については、『田中正造文集(一)(二)』(岩波文庫 2004年)があります。そちらを詠んだという人が多いでしょうか。
さて、下はパンフレット2㌻です。大きくしましたから、読んでみてください。
木下順二が「あれから1世紀、日本は、本質的にはどれほど進んだといえるだろう。」と感慨を述べています。これはほかのことでもよく聞く感慨です。
それから、中央に田中の言があります。
これは、今の与党自民党の裏金問題や憲法に対する体たらくを見るにつけ、今もその通りです。ちっとも変わりません。違うのは、現在は、ハラスメントなどいろいろなことで「庶民が実名でも抗議の声をあげるようになっていること」です。
きょうはここまでです。
一言:
先人の姿勢に学ぶことが必要と思います。
その際に大事なことの一つに「不屈」、「つぶれない」ということがあると思います。
きょうの東の空