早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

自然讃仰 郷土敬愛 人生未到  早春の句

2018-01-23 | 永尾宋斤の句集:宋斤 思い出の記・定本宋斤句集
大正15年2月に『早春』創刊号の宋斤の挨拶 
祖父宋斤は「早春」創刊のことばに 自分の生まれたところ、自分の住んでいるところに深い敬愛と愛情を持って暮らしたい そして俳句は 大自然を讃え 人生を味わい とくに季節を尊ぶ世界随一の芸術であると誇りを持って記しています

自然讃仰 郷土敬愛 人生未到

宋斤の句 『早春』 創刊号から

早春や枯れたるものや光あり
早春の野にかけもてる小家かな
早春の凪ぎなる櫟枯れ林
早春や鴛鴦たへずいづくろひ
早春や家あり魞に人も見ゆ
早春の水面およげる小えび哉
早春の寒さは水にうめの枝
早春や野の艸すでに昂りて
早春や紫紺つばきの丸ろき葉の
早春や水仙咲くを富として
早春の朝日に應える艸も木も


「早春や枯れたるものや光あり」の句碑は、豊中市曾根崎の"萩の寺”にあります。

 「申し上げます」「早春」第一巻第一号 大正十五年二月

2018-01-23 | 永尾宋斤の句集:宋斤 思い出の記・定本宋斤句集
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大正十五年一月七日大阪曽根崎 露の天神社における早春社発会式すなわち創立俳句会をへて、二月俳誌「早春」を創刊。

祖父宋斤は「早春」創刊のことばに 自分の生まれたところ 自分の住んでいるところに深い敬愛と愛情を持って暮らしたい そして俳句は 大自然を讃え 人生を味わい とくに季節を尊ぶ世界随一の芸術であると誇りを持って記しています




申し上げます
  此度 私どもは 俳句雑誌「早春」を創刊いたします
特にこれと申す発行趣旨もありません 斬道の研究と作品の発表と 偏に俳句精道するための機関として切に必要を感じて来たのであります
またその誌面を俳壇の公器としてとして提供し、廣く諸賢に使って貰うのであります
  平素 私どもの聊か思ひつゞけてゐることがあります。『自分の生まれたところ』と『自分の住んでいるところ』の郷土に深い尊愛をもって暮らしたいと云ふことであります。
自分の土地を愛することからして また『多くの友人たちのうまれたところ 住んでいるところ』をことごとく慕しく思ひます  但しこのことは何も私どもだけの考へではなく お互いに俳句を作るほどのものには特にこの感が深いものかと推知致します 己の土地を愛し 友人の土地を想ふ 其處に社會があり 道徳があり 人生があり 藝術が生まれます 別けて隣人愛の観念に強い俳句及び俳人には限りない相互の友情があります
  
  俳句は大自然を讃仰し 人生を味會する詩として特に季感を尊重する世界随一の藝術であると思ひます
  大自然の支配下の人間生活であることを體驗及び経驗に自覚し味到するの意識に於いて 邦語の韻律に適合してゐることに於いて
世界第一の最短詩である俳句は 内容より詩型より 確かに我国独有の民族誌であります

  春夏秋冬の季感は何れの国よりも我邦土の上に洽く恵んで居ります 均等的變化且つ最も鮮明であると思ひます その美しき現れである山川草木或いは郷土々々の行事は常に多種多趣味であります これを歌ふ季感芸術の俳句は誠に日本に生を享けたものの誇りと感謝の聲だとも云ひ得るかと思ひます 自然に恵まれてゐる国民性の発露であるとも思ひます
  
  季感は季題へ 即ちそれの時間的印象の顕著であって藝術的價値あるものが創造と傳統から洗縺され撰擇されて數々の有季語ができました 即ち作句上に季題が成立して来ます「時代の進轉と郷土の個風は常に季題を作る」亦この意味に於いても 俳句と郷土の天地とは最も密接のものであります  

  作品的價値と云ふことから見ても 住む己の土地或いはたとへ通りすがりの旅の土地にしろ その自然 その土俗に好意以上の誠意を持たないやうでは到底本当の俳句はできないかと思ひます  作品が持つ気品も個性も實は境地に對する温かい深切と忠實な観察からおのづとその結果に備わるものかと思ひます

  と云ったやぅな述べて見ても首尾も定まらぬことがらであります
  併し 若し「早春」の發行の目的はと強いて問わるるならば さしずめ以上のことを御答へに代えやぅかと思ひます

  その機関としての雑誌「早春」を諸賢の善用に備へ また私どもも何かと愚言を申し上げたく そして俳句及び「早春」の健全な發達を期する為に不肖ながら私どもは努力致すものであります  
  特に御力添へを御願ひする次第です                       
  宋斤