定本宋斤句集 夏 9
蟷 螂 遁ぐること迅き蟷螂生れけり
まくなぎ まくなぎを清水にはらひ旅つかれ
まひまひ まひまひの雨の一粒知りにけり
孑 子 殲滅す孑子の水庭が吸ふ
目 高 尾をまげて水裡風ある目高かな
金 魚 馴れ様は怖ぢ沈むにも古金魚
らんちゅうの子が豆ほどな力泳す
守 宮 ももの音しづかに遠し燈の守宮
蛇の衣 蛇の衣十重にも疊み筺の中
芳里君より河鹿を貰ふ
河 鹿 河鹿鳴くやとある旦の雨知って
河鹿笛夜更けの獨り弄ぶ
鮎 水底や澄めるがあわれ網の鮎
鮎焼くや山色懐ふ伊賀の國
鱚 汐のいろ鱚の日ぐれとなりにけり
鱧 鱧の皮二聨三聨疊けり
餘 花 笠ぬぎて遍路ゆくなり餘花の下
新 樹 夜はさすが背の新樹の冷え冷えす
若 葉 夜の庭に草履設けて若葉かな
若葉寒む朝に鯛の煮凝れる