宋斤の俳句「早春」昭和十七年 九月 第三十四巻三号 近詠 俳句
近詠
家の燈に船あからさま秋されぬ
草遠く走り戻り來秋の猫
蜉蝣や金龜子暴ばれて去し燈に
新涼や寺か社か小木の闇
城ほとり蓮うつ燈に夜學せる
朝鈴に朝の掃き拭きまづ濟みし
蜩や馬つながれて淋しがる
子どもらにうれしき出水木槿垣
桃あかしコップに漬けて水を染む
稲を知らず工場の煤けすゞめかな
とんぼうの深寝やかさと翅伏せて
舟これよりゆかず干泥に鴫のあと
紀伊船の盆しに歸る輪のけむり
佛壇を隠居あづけに魂まつり
露ぶかに彳ち語りゐる盆の人
葛の葉はところの名にて盆おどり
三更のそら薄雲に盆の月
蟲今宵もやひ筏の草しげり
はたをりや簾透く燈の細ろう地
九州四國暴風解報のなぐれ吹く
諸肌に野風よろしや鰶汁
秋の海の雲に照りけり峠平
豆 飯
豆飯は河内の乳母がたき上手
豆めしをよそひ押さへて火打箱
豆めしの豆ぬきて喰べ子の楽し
池曇夾竹桃に落花なし
灼日の夾竹桃はかげちらす
見送れば丘にふりかへる友涼し
二葉會六月例會
百合の香のほのとし泉明るけれ
芝ひろく一石の奇と竹床几
二葉會七月例會
樹下石上夏日一書を懐に
蛇のあとつめたき土をふむ
二葉會 須磨吟行
松籟に行燈消されな甘酒屋
土用凪沖遠きほど巨船なる
近詠
家の燈に船あからさま秋されぬ
草遠く走り戻り來秋の猫
蜉蝣や金龜子暴ばれて去し燈に
新涼や寺か社か小木の闇
城ほとり蓮うつ燈に夜學せる
朝鈴に朝の掃き拭きまづ濟みし
蜩や馬つながれて淋しがる
子どもらにうれしき出水木槿垣
桃あかしコップに漬けて水を染む
稲を知らず工場の煤けすゞめかな
とんぼうの深寝やかさと翅伏せて
舟これよりゆかず干泥に鴫のあと
紀伊船の盆しに歸る輪のけむり
佛壇を隠居あづけに魂まつり
露ぶかに彳ち語りゐる盆の人
葛の葉はところの名にて盆おどり
三更のそら薄雲に盆の月
蟲今宵もやひ筏の草しげり
はたをりや簾透く燈の細ろう地
九州四國暴風解報のなぐれ吹く
諸肌に野風よろしや鰶汁
秋の海の雲に照りけり峠平
豆 飯
豆飯は河内の乳母がたき上手
豆めしをよそひ押さへて火打箱
豆めしの豆ぬきて喰べ子の楽し
池曇夾竹桃に落花なし
灼日の夾竹桃はかげちらす
見送れば丘にふりかへる友涼し
二葉會六月例會
百合の香のほのとし泉明るけれ
芝ひろく一石の奇と竹床几
二葉會七月例會
樹下石上夏日一書を懐に
蛇のあとつめたき土をふむ
二葉會 須磨吟行
松籟に行燈消されな甘酒屋
土用凪沖遠きほど巨船なる