早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十七年十月 第三十四巻四号 近詠 俳句

2023-02-08 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十七年十月 第三十四巻四号 近詠 俳句



   近詠

明けわたり時化はさほども椿の實

照るも涼しく桑鷹の鳴く山畑

ほとゝ地に桔梗の雫なりしかな

芒そよげば照れば椎夫のたちはゆる

誘蛾燈旅人に明けしらけたる

秋そばえ國旗の家並對山す

菊の戸に海千里なる便りかな

秋さくら女郎花など谷ぬくし

月の川名残の簾照にけり

良夜なる鷽の寝すがた籠に見る

月圓か開發映ゆる大東亜

芭蕉像月見して一茶壁に拗る

鯉はねしあとのしばらく秋夕

萩にあり薄になり祭店

義仲寺の塀伸す芭蕉破れけん

月夜蟹つぶやくまゝに生かされぬ

老螽黄を吐き指を跳びにけり

鳴くぎゝを魚籠に落しぬ雨の中

そよぐなる地にかげのしつ吾亦紅

洲のかたちをつはくら新田鰡の飛ぶ

麓空雲のこづみに添水打つ

川霧の朝より著たり秋袷

    春の月
扉重く押し出て仰ぐ春の月

春の月牛おきてゐて反芻す

藤雲を山籩にぬぎし春の月

    麗
打水をかどひろくしぬ麗けき

麗かに野走る水のふくれあり

麗かや草に臥すより唄あがる

   子規忌 昭和十七年九月十三日  萩の寺
   兼題『子規忌』「秋澄む」「友善忌」「即事即景」

従軍の子規をおもひつ子規忌哉

萩あつし蝶のまぎれて土をゆく

人ゆきて萩むら澄むにかくれけり

碑文は露の萩の句友善忌

萩の中に彼はかく居し友善忌